からだが凍える南国の風

カリムさんの本質はどっちなんだろうか。
さっき入ってきた時は本気で怒っているような厳しい顔をしていた。けれど今話している彼は、明朗快活で細かい事は気にしないような性分に見える。
それに、きちんと寮のことは考えているようで学力や技能向上のためにホリデーの間、特訓しようという事にしたらしい。
まあ、それもグリムのメリハリが大事という話で今日一日のみで特訓は終了するようだ。帰りたいと言っていた寮生にとってはいい事なのだろう。

「よーし、特訓終わり!さ、行こうぜ!」
「おい!今日の課題はまだ………はぁ」
「大変だね、ジャミルくん」

休憩を挟みつつ6時間の特訓を終えると、寮内を案内してやると言うカリムさんにグリムが付いて行ってしまう。
グリムを放置するわけにもいかずに弟も付いて行ったけど、私は寮よりも課題に興味があった。
寮生も学園から出た課題をするようで、中には談話室でやる者もいた。ジャミルくんは談話室で自分の課題をやりながら分からない生徒に教えている。
というより、教えるのがほとんどで自分の課題が出来ていない。
私は邪魔にならないように、ジャミルくんの横で課題とテキストを見ながら彼が教えているのを見ていた。
ジャミルくんの説明はとてもわかりやすく要点を押さえているようで、教わっている生徒は一度聞くだけで理解していた。

課題もせずに見ているだけの私を不審に思う人は当然いたけれど、ジャミルくんがオンボロ寮の管理人で学生じゃないと説明すると不躾な視線は減った。
それでも見られているのは、購買部で働いていた人だと気付いているのかもしれない。
中にはオンボロ寮と聞いて、魔力のない人間が魔法が珍しくて参加していると思ったようで、たまに説明してくれる生徒もいた。

「よし、みんな今日はここまでにして夕食の準備をしよう」
「じゃあ、私はグリムたち回収して寮に戻るね」
「それなんだが、この世界の魔法に興味あるんだろ?君に勧めたい本があるんだ」

嬉しい申し出に感謝した。部屋に置いてあるから一緒に来てくれと言って他の寮生に先にキッチンへ向かわせると、私を連れて自室まで歩いた。
彼は、熱砂の国がどういう国かを教えてくれた。私のいた国とは全く異なる文化で、身分の違いによる貧富の差があるんだろうなと感じた。
カリムさんとジャミルくんの関係も簡単に教えてくれた。身分というものがある以上、そういう関係になってしまうのだろう。
無関係の私が二人の関係に口を挟むなんて烏滸おこがましいので「"あの"カリムくん相手だと気苦労が多そうだね」という当たり障りのない返事しか出来なかった。

「入らないのか?」
「うん、ここで待ってる」
「ミヤのようにカリムも少しは警戒心を持って欲しいものだ」
「確かに、初対面の私を勉強に誘うんだもんね。あの強引さには困っちゃうよね」

部屋の中に入っていくジャミルくんを入り口に立って待っている。彼の部屋は一人部屋のようで、きちんと整理された部屋だった。
あまりジロジロと部屋の中を見るのは失礼かと思い、壁を背にして廊下の向こうに見える建物をぼんやり見た。
白を基調とした建物の滴型のオブジェに描かれている金色は寮の豪華さからして、本物だろうかと考えていた。

「待たせたなミヤ」

部屋から出てきたジャミルくんの距離の近さに驚きつつ見ると、自然と見上げるようになった。
ジャミルくんと目が合った瞬間、頭の中が得体の知れない何かに支配されるような感覚に苛まれた。
何かの術の侵入を防げるかどうか分からないまま、一か八か閉心術を使うと侵入してきた何かがすうっと引いていくのを感じた。
もし効いていなければ、私はどうなっていたんだろうかと恐ろしくて息が荒くなった。

「?ミヤ、」
「あ、ジャミルくんごめんなさい。なんか、今ちょっとおかしな事があって」

心配させてしまったかと顔を上げると、私の様子に戸惑ったような顔をした。もしかして、変な挙動でもしていただろうかと恥ずかしくなった。
言い訳をするように、急に頭痛がして変な感じになったとジャミルくんに説明した。
すると、真剣な表情をした彼は視線を逸らすと口元に手を当てて何か考えているようだった。

「それなら、早く寮に帰ったほうがいいだろう」
「弟達が戻ってきたら一緒に帰るよ」
「いや、いつ戻るか分からないカリム達を待たずに、寮に帰って早目に休んだ方がいいだろう。
戻ったら俺が先に帰ったと伝えておく」
「ジャミルくんの手間にならない?」
「全く手間じゃないさ。さ、夜になって冷え込む前に」

すごく心配しれくれるジャミルくんに感謝して足早に寮を出る。スカラビア寮の暑さで忘れていた冬の寒さが全身を襲った。
体を縮こませながら寮まで駆け足で向かった。オンボロな寮だけれど、私の修繕のせいか室内は寒さを感じない。
残っていた食材で夕飯を作って待っていたが弟達は帰ってこない。もしかしたら、夕飯もご馳走になっているのかもと気にしていなかった。
なのに、朝になっても戻っていないのを確認した私は暖炉の火の番も忘れ、スカラビア寮へ走った。