自由を求めて己を解放す

『僕の主人は…あなたさまです。ジャミル様。なんなりとご命令を…ご主人様』

電話の向こうでジャミルくんが呪文を唱えるとアズールさんが苦しみだし、何かに耐えるように呻き声をあげると抑揚のない返事をした。
私もこうやってジャミルくんに操られたんだろう。私もご主人様なんて言ったんだろうか。
ジャミルくんは私たち聞かれているとも知らずに、自分の思惑と目的をペラペラと喋り出した。
カリムくんが心配になって顔色を窺うと向こうも私に気付いたようで、面食らった顔をしている。

「なんだ、お前たち。随分仲がいいな!」
「いえいえ、違いますよカリムさん。僕、気付いてしまったんです」

一体何をいうのかと思えば、カリムくんは操られていたと言うのだ。この合宿もカリムくんの意思ではなかったとジェイドさんは続けた。
当然信じないカリムくんに、今から犯人に会いに行きますとジェイドさんは立ち上がった。
犯人が知りたいのなら付いて来てくださいと、フロイドさんと一緒に談話室を出て行く。
慌てて私と弟たちも後を追った。途中振り返ると、どよめく寮生と話しているカリムくんの姿が見えた。
彼らは来るだろうかと考えながら二人に追いつくと、悪巧みしている時のような至極楽しそうな顔をしていた。

「ああ、すみません。顔に出てしまいましたね…ですが、あなたもあまり驚いていないように見える」
「ジャミルくんが犯人だって気付いてたから」
「それは…意外でした」

二、三言葉を交わしていると廊下に立っているジャミルくん達の姿が見えた。
ジェイドさん達と物陰に隠れ静かに出て行くタイミングを測っていると、カリムくん達が寮生を連れてこちらに向かってくるのが見えた。
今がいいタイミングだとジェイドさんは二人の前にゆっくりと出て行った。

「話は聞かせていただきました」

驚き、慌てふためくジャミルくんを糾弾しているジェイドさんが、なんだか楽しそうに見えて何て性格の歪んだ人なんだと思った。
寮生も集まってきて、本当なのかと問い詰め始める。それに、なりふり構わなくなったジャミルくんがアズールさんに命令を出した。
洗脳状態にあるアズールさんが言われるまま私たちを拘束するのかと思った矢先、予想外のことが起こった。

「僕を"傲慢な魔法士"と思って油断していましたね。
熟慮の精神がモットーのスカラビア寮、副寮長ともあろう者がザマァない」

さっきまでの操られたような喋り方は全て演技だった。だからジェイドさんは楽しそうに糾弾していたんだ。
それにしても、どうやって防いだのだろうかと思っていると聞いたことのない地を這うような低い声が聞こえてビックリした。
声の主であるフロイドさんを凝視してしまった。
特訓で寮生が縄でぐるぐる巻になったのは彼のユニーク魔法が原因だったのかと考えながら、横から聞こえてくる低い声が気になって仕方なかった。

この状況にそぐわない心境だったため、空気を壊さないように黙ってみんなの話を聞いていると、カリムさんがふらっとみんなの前に出た。
そこで、私の感情は一気に冷えた。そうだ、カリムくんにとっては全く笑えない状況なのだ。
カリムくんは明らかな裏切りに対して、まだジャミルくんを信じようとしていた。彼がどれほどジャミルくんを信頼してきたかがわかる。
信じがたい現実を否定して欲しくて、裏切ってなんかいないと言って欲しくて言葉を紡いでいく。
しかし、カリムくんの気持ちは完全なる一方通行だった。

「俺はな…物心ついた頃から、お前のそういう能天気でお人好しで馬鹿なところが大っっっ嫌いだったんだ!!!」

寮内全体に響いたのではないかという、強い感情の刃が空気を裂いてカリムくんの心に刺さった。
ジャミルくんは今までため込んできた不満や憎しみ怒りといった所謂ヘイトを吐き出すと吹っ切れたような、けれど何かを諦めたような苦しい顔をした。
静止するカリムくんを無視して、ジャミルくんは呪文を唱えた。
寮生に向かって使用された魔法は、寮生に完璧にかかった。私たちをつまみ出すように命令された寮生が襲いかかってくる。

各々意思があるように魔法を放ってくる寮生はとても厄介で、生徒を傷付けないように気を遣っている場合じゃないかもしれない。
そう思った時、カリムくんの言葉が再びジャミルくんを刺激した。今まで抑えてきた感情が堰を切ったように溢れ出しているようだった。
このままだとブロットの許容量を超えるという静止の言葉すら、感情が暴走しているジャミルくんには刺激になった。

「俺はもう誰の命令も聞かない!!俺は、もう、自由になるんだーーーーー!!」

自由を切望するジャミルくんの叫びと共に、魔力の圧を感じた。とっさに瞑った目を開くと、空は太陽が落ちたように真っ暗になり辺りは不気味な赤黒い光で照らされている。
ジャミルくんの姿も変化していた。だれかが、オーバーブロットだと言った。レオナさんののようにジャミルくんの背後にも負のエネルギーの塊のような腕のある化身ばけものが現れていた。

「みなさん!構えてください!」

アズールさんの言葉に杖を構えた。
早くジャミルくんを正気に戻さなければ、魔力を使い果たしてしまう。大丈夫。レオナさんの時だって上手くいった。
気を引き締めると、ブロットの化身に向かって魔法を放った。