ビーターが棍棒で打ち上げたブラッジャーのように勢いよく空を飛んだ。ただ、ブラッジャーと違うのは方向転換が出来ないことだ。
空気の抵抗を感じるのに全く速度が落ちないまま、箒もなしに空をどこまでも飛んでいく。
飛ばされる瞬間にあげた悲鳴は止んでいる。いつになったら地面に着くのだろうかと考えること10回。突然、その時が来た。
「ああああ〜〜〜〜〜っ!!!」
いきなり体が降下しだして再び悲鳴が上がる。一瞬で雲を突き抜け、地面が見えた。慌てて弟を探した。
思ったより近くにいたことに安堵し、グリムの手(前足?)を掴むと弟にもグリムを掴むよう叫んだ。
他の人は自分で何とかするだろうと、地面にぶつかる直前にクッション呪文を使用した。
地面スレスレでふわっと体が止まり衝突を防げたと安心したら、魔法が消えて地面に落ちた。ちょっと痛かった。
周囲を見渡すと各々魔法でどうにかしたようで無事なようだった。カリムくんを除いて。けれど気絶していただけで、どこも怪我はしておらず安心した。
「ユウさんとカリムさん、ミヤさんは長時間ここにいるのは命の危険が伴いそうな寒さだ」
そう言ったアズールさんが肩に掛けていたコートを私の肩に掛けてくれた。
私よりもカリムくんの方が寒そうだと言おうとしたが、アズールさんは私に何も言うことなくフロイドさんたちと箒も絨毯も無しにどうやって帰るかと相談しだした。
「呪文で呼び寄せることは出来ますけど」
「どれくらいかかるんですか?」
「私達が飛んできたのと同程度、かかります…」
「そうですか…」
呼び寄せても瞬時に目の前に現れるわけではないのだ。歩くよりはマシかもしれないが、得策ではない。
全く無意味な提案をしてしまったと尻すぼみになった返答に、期待はしていなかったという反応をされて後悔した。
このコートの借りをどうやって返せばいいのだろうか。とりあえず、汚さないようにしようとしっかりと袖を通した。
「ジャミルはっ、本当は、あんなことをするようなヤツじゃない!」
涙を流して、自分のせいでジャミルくんが変わってしまったというカリムくんに、ここまでされておいて何を言うんだと思っていると弟がキツいツッコミをした。
たとえカリムくんの存在や自分の家といった
カリムくんは、みんなから何を言われてもジャミルくんが裏切ったという事実が良くわかっていないようだった。
それが、アズールさんの冷静な分析と諭すような口調により、ようやくジャミルくんが裏切ったという事。ジャミルくんが悪い事をしたという事実を理解したようだった。
「それなら早く帰らなくちゃ。アイツを殴って"裏切り者!"って言ってやらないと」
項垂れるように俯いていた痛々しいカリムくんの姿はどこにもなかった。この人は、誰かを疑う事も恨む事もない心の持ち主なんだと思った。
良く言えば天真爛漫。悪く言えば無神経。
それがジャミルくんには耐えられなかったのだろうけれど、私には前向きで、素直で、とても眩しく尊いもののように思えた。
そして、再びどうやって帰るかという話になった。川があれば泳いで戻れたというジェイドさんの言葉に、とりあえずやってみようと杖を出した。
「
「おやおや、これでは何年かかるか分かりませんね」
「しょぼっ」
杖を向けたところから、じわあっと広がる水溜り。じっと見ていると、じわじわと水嵩が増しているように見える気がする。
何か力になれないかと思っての行動なのに双子の辛辣な言葉に悔しくなる。
アズールさんも、双子が本来の姿に戻れば箒以上に早く帰れるのにと、大変嘆かわしいといった口調で訴えた。
ちらっと私を見ると視線を逸らしてため息をついたのには、少し腹が立った。
カリムくんのユニーク魔法『
アズールさんは下世話な事を言っていたけれど、これは本当にすごい。こんな素敵な魔法があるなら早くやって欲しかった。
カリムくんのおかげで川は満たされジェイドさんに捕まって帰ることになり、あの時の恐怖を思い出して身震いをした。
アズールさんのまだ寒いんですかという問いに首を振ると、ジェイドさんにしがみついた。
一刻も早く戻るようにという二人の泳ぎは、それはそれは速かった。これは、確かにホグワーツの飛行訓練で乗った箒より速いと感じた。
そして、やっぱり怖かった。
体にハンドルがあるわけもないので、腕は肩に回し脚も体に巻きつける。まるでコアラのように必死にしがみ付いた。
ようやくスカラビア寮にたどり着くと、みんなぐったりしていた。
こんな乗り物には金輪際乗りたくないと思ったのが顔に出てしまっていたようで、ジェイドさんがしくしくと悲しい顔をした。
「感謝してます、お疲れ様です。
「ホントだ!体がかるーい」
「そうだ、アズールさん。コートありがとうございました。おかげで寒さを凌げました」
「…なんのことです?僕はただコートを脱いで近くにいた人に掛けただけですよ。
そう、コートスタンドに掛けたに過ぎません」
だから感謝される覚えはないと私からコートを受け取ったアズールさんは、早くジャミルさんの所へ行きましょうとクルッと背を向けて歩き出した。
呆けている私の横をクスクス笑う双子が通り過ぎ、グリムとカリムくんが一発殴ってやる一発じゃ足りないんだゾと言いながら進んでいく。
早く行こうと弟に声を掛けられ、ようやく私は足を動かした。
とりあえず、対価は要求されなかったから良しとする。