ジェイドがその人魚に興味を抱いたのは、エレメンタリースクールに通ってもうすぐ3年になる頃だった。
フロイドの気紛れな思いつきを楽しみ、より楽しくする方法を提案して試して失敗したり成功したりして、楽しく遊んでいた。
その日は、美しいけれどノロマでつまらない人魚がいると噂を耳にした。
噂の人魚はすぐに見つかった。確かに美しい容姿をしていると思った。差し込む光を浴びた髪はきらきらと漂い、肌は白く鱗も同じ様に白く輝いているようにも見えた。
けれど、それだけだ。
先日、同じように周囲と関わらず壺に引きこもって魔法の勉強をしていたタコの人魚に会った。彼は8本ある蛸足を使いこなし何倍もの速さで魔法陣を書いたり、魔法書の書取りをしていて面白い人魚もいるんだなと思った。
机に向かってのんびりした動作で何かを書いている彼女からはそういった面白さは感じなかった。
「ジェイド〜なに見てんの?」
「さっき噂されてた子だよ」
「ふ〜ん、きれいな子だね。なに書いてるんだろう」
気紛れなフロイドがその人魚に話しかけに行った。何か面白いことでも起きるといいなとジェイドはついて行く。
もし、ここでフロイドが話しかけに行かなければジェイドは今後この人魚に対して興味が湧いたとしても、それ以上の感情を持つ事はなかっただろう。
話しかけられた彼女はふっと僕らを見ると直ぐに視線を落として書く手は止めなかった。終わったばかりの授業の復習かと思っていると、板書をしているというのだから驚いた。
既に消されてしまった物を正確に思い出して書くほどの能力があるなら書く必要はないのに、頭は良くないのかなと思った。
それから何日後、思い出したようにフロイドが彼女に"覚えているなら書く必要は無い"と言った。
それを聞いた彼女の反応を見て、やっぱり頭は良くないんだなと思った。しかし、その記憶力は凄まじくパッと見ただけで正確に記憶してしまうのだから驚きを隠せない。
それからの彼女は休み時間をクラスメイトと過ごせて楽しそうだった。ただ、今まで疎遠だった上に挙動も遅いので周囲の人魚は戸惑っていた。
それに気付かないなんて、やっぱりちょっと世間の感覚とズレているというか能天気なのかもしれないと感じた。
ある日の放課後、今日は何をしようかとフロイドと泳いでいると海流に漂っているのかと思うほどノロノロと泳いでいる彼女を見つけた。
その姿を見て確かにこれでは活発なクラスメイトと気が合うはずがないとジェイドもフロイドも思った。
「ねーねー、泳ぎの練習してんの?手伝ってあげようか?」
彼女が返事をする前に、その手を取り好き勝手に引き摺り回した。ぐるぐると渦のように回り放ったかと思うと、すぐにまた手を取って回転し上へ放ってはまた手を取ってびゅんびゅんと泳ぐ。
ジェイドはおもちゃにされているなと傍観していたが、まるでダンスをしてるようなフロイドとセシリアの楽しそうな笑顔が少し面白くなかった。
完全に遊ばれていただろうに、笑顔でお礼を言うのだからジェイドは目を見張る。この人魚が鈍いのは動作だけではないのかと。
それと同時に胸の中に甘い疼きのようなものを感じていた。
ミドルスクールに上がった頃、セシリアがアズールに会いに行ったと耳にした。ジェイド達が面白いタコの人魚がいると彼女の前で話した事があり随分と気にしている様子だったのは覚えている。
ジェイドはアズールと彼女が知り合えば親しくなってしまうと直感的に思っており、なるべく彼女の興味が他に行くように意識を逸らしたりフロイドと共に泳ぎの練習と称してスクールの外に連れ出すようにしていた。
それなのに、セシリアはアズールに会いに行ってしまった。
ジェイドは自分の目を盗んで会いに行くほどに興味があるのかと、屈辱にも似た感情がわいた。
「その魔法書って図書館にないやつだよね。そんな難しいの読むなんて、やっぱりアズールくん頭いいんだねえ」
「読み終わったら貸して差し上げましょうか」
「隣で見てるだけで大丈夫だよ」
「・・・それで魔法を使いこなせる実力があれば怖いものなんて無いだろうに」
「記憶力しか取り柄ないからね。何でも言ってね!何でも覚えてるから」
図書館の隅の方に二人はいた。静かにしなければならない環境のせいか、小声で話すセシリアたちの距離の近さにジェイドの拳に力が入った。
二人が話し始めてどのくらい経ったのか分からなかったが、僅かな間に二人がこんなにも親密な空気になるのは予想外だった。
面白くない光景を目の当たりにしたジェイドはセシリアとの関係を築くための計画を練った。
愛らしい花の種を植えました
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