「ねぇ、本当に大丈夫かな?」
「平気よ。ちゃんと出来てるわ」
「そうだよね、自然にしなきゃ・・・怖くない怖くない」
「たしか、友達?幼馴染だった?その人を探すのよね?」
「どこに行けば会えるのかな?」
「わからないけど、とにかく休憩しましょう」
ジェイドは二人の顔に見覚えがあった。一人は珊瑚の海でセシリアと同じ学校に通っているはずの人魚で、もう一人は愛しいセシリアだ。
手紙にはそれらしい事は一つも書かれていなかったのに、いつの間に人間への恐怖心が無くなったのだろうか。
こんな早期にセシリアが陸に上がるとは全く予想していなかったジェイドは、混乱しており二人の会話は届いていなかった。
素早く動いたのはフロイドだった。二人の美しい人魚を見つめる人間を蹴散らすように近付くと、スタッフの目が届きやすい席に案内した。
一緒に来た人魚はフロイドを見ると顔を強張らせていたが、セシリアは花が咲いたように笑顔になった。
フロイドがいるという事はジェイドもいると分かったからだ。
だというのに、ジェイドはその笑顔を見た瞬間嫉妬の炎が彼の足を動かしアズールからVIPルームの鍵を奪うと、セシリアを連れ去った。
セシリアはジェイドが怒っている理由が危険を冒して陸に上がってきた事だと思っている。
もちろんそれも理由の一つだが、大半は陸に上がって最初に笑いかけたのが自分ではないという、嫉妬心だ。
その狭量なジェイドによってソファに押し倒されたセシリアは、ぎゅうぎゅう抱きしめてくるジェイドを安心させるように背中に腕をまわした。
人間の姿だと体長がずいぶん短くなるんだなぁと、セシリアは
尾鰭を人魚の時のようにジェイドのそれに絡ませた。
「セシリア・・・」
ジェイドは、人の姿になってまだ一年も経っていない。歩く、走るといった身体動作に重きを置いて過ごしてきた。
学園は男子校であり、男性特有の生理現象というものを体験したことがなかった。愛しいセシリアの意図せぬ蠱惑的な態度がジェイドの劣情を誘ってしまった。
頭に血が上っていたジェイドであったが、思わぬ身体の変化に驚きセシリアから体を離すとソファから立ち上がった。
「ジェイドくん、もう終わり?」
「ええ、すみません。少し感情的になってしまいました」
「私もごめんね、心配させるようなことして…でも会えてよかった」
ジェイドは再び己に湧き上がった欲と戦う羽目になった。
目の前にいるのが他の人魚や人間だったら、はしたない、だらしがないとしか思わなかっただろう光景があった。
眼下に広がるセシリアの姿は眼福なようで、目に毒だ。
ソファに倒れているセシリアのシフォンのワンピースは乱れ、生っ白い脚を晒した状態で自分を見上げる姿がジェイドの欲をどうしようもなく唆った。
セシリアには人間の性知識は全くなかった。ただ、いつもなら暫く続く抱擁があっさり終わってしまったなと、少し寂しく感じただけであった。
今の格好が年頃の男の欲を刺激しているとは微塵も思っていない。ジェイドは大きく息を吐き無邪気に笑っているセシリアをソファに座らせ衣服を整えてやると、自分も隣に腰を下ろした。
「身体は辛くありませんか?」
「えっと、何だっけ足?が痛いの。体も凄く重く感じるし、こんな棒みたいなヒレで支えるのが難しくて」
「ああ、それなら後で何か冷やす物を持ってきましょう。今は、これで我慢してくれますか?」
セシリアは重力というものを初めて体験して、何かに下から引っ張られる感覚に戸惑った。
何より人間の尾鰭は意識していないと、すぐに関節という部分が折れ曲がってしまう。大した練習も出来なかったため、友人の人魚に支えられながらここまで来た。
ジェイドにされるがまま膝の上に座ると、頬を彼の胸板につけ、ぎゅっと抱きついて感謝を述べた。
足が床についていないだけで随分楽だとセシリアは感じていた。
一方、ジェイドはこの状況を楽しんでしまおうと吹っ切れていた。
セシリアは何をしていたって可愛いのだから欲が出るのは当然の事だと受け入れ、どちらかが邪魔しにくるまでセシリアを堪能しようと考えた。
優しくセシリアの髪を撫でながら学園に来るに至った経緯を聞くと、ハイスクールでできた友人に誘われたと話した。
友人の人魚は陸への憧れがあったが、口止めされていたためセシリアには一切話していない。
しかし、ジェイドに会いたがっている姿を見ていたら何とかしてあげたくなり、ジェイドの所に連れて行くくらいは良いだろうと判断してセシリアを誘った。
人間がたくさんいる場所に行くなんて危険だと友人の心配までして反対していたセシリアは、非常に悩んだ結果、ジェイドに会いたいという気持ちが勝り陸に上がってきたのだ。
セシリアの口から、会いたい気持ちが抑えられなかったと言われたジェイドの心は喜びで震えた。
会いに行くのはいつもジェイドの方で、ある程度好かれている自信はあったが、まさか恐ろしい人間がいる陸に上がってくる程に彼女に求められているとは思っていなかった。
ジェイドは名前を呼び顔を上げさせると、寮服の痕がついた頬を優しく撫でてから両手で包み唇にそっと口付けを落とした。
今まで頬にする親愛のキスは何度もしてきたが、口にした事は一度もなかった。
二人は
番ではないからだ。
恐怖にみずから飛び込めば、海底
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