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「面白かったですね。」

「…そうですね。」

「そういえば、夢さんは一度ご覧になってらっしゃるんですよね。」

「そうですね…割と直近で…」


やはり心臓がいたたまれなかった。
たくさんの方々がホールで女優さんや俳優さんの姿に喜んでる姿を見ながら、申し訳なさでいっぱいの私の肩身は延々と狭かった。


「お付き合い頂いてすいません。」

「あ、いえ、安室さんはなにも…本当ごめんなさい…なんかこう、いたたまれなくて…」

「…夢さん、あそこ見てください。」

「え?」


そこには、試写会が終わった後の一般のお客さんがカメラを向けられて、インタビューに答えているところだった。


『原作も見たけど、やっぱり面白かった。』
『小説の中にある繊細な部分がちゃんと表されていて、本当に良かった。』
『めちゃくちゃ泣いた。』


入れ替わり立ち替わり、たくさんの人が感想を言っていく。
私も現場で少しだけお話しした。
俳優さんも女優さんもスタッフさんも、私なんかの一言を真剣に大切に考えてくれた。
上映会の時に、喜びが湧き上がった。
そこには、私が作った世界をさらに伝えようと、作ろうとしてくれたたくさんの人たちの気持ちが詰め込まれていた。
そして、それを見た人たちが感情を動かしてくれることがどれだけありがたいことか。


「安室さん。」

「はい。」

「お願いをしてもいいでしょうか。」

「…では、僕は壁になっておきましょう。」


一言だけで察してくれる彼に心底感謝をして、私は涙を零した。
悲しくもない、辛くもない。
喜びが溢れるこの涙は、彼が隠してくれないと私のことを怪しむ人が出てきてしまうだろう。
無言で数分、私のことを隠してくれた彼に感謝をしながら、私は静かに涙を拭いたのだった。


「ありがとうございます。もう大丈夫です。」

「では、小腹も空きましたし、軽食でも食べに行きましょう。」

「はい。」


近くの喫茶店に行って、メニューを決める。
私はハムサンドを頼み、安室さんはカツサンドを頼んでいた。
飲み物はコーヒーとカフェオレ。
先に届いた飲み物を喉に流しながら、会話に花を咲かせようと考えたのか、安室さんがまず口を開いた。


「そういえば、夢さんはいつもサンドイッチを頼まれますよね。」

「あー…癖というか…こう、ご飯は片手間に済ませることが多いので、片手間に食べられるものが良くてですね…」

「なるほど…普段の食事はどうされてるんですか?」

「え、いつも頂いてるじゃないですか。」

「え?あ、いや、ポアロ以外では…?」

「特に食べてません。」

「は?」

「え?」


瞬間、空気が固まる。
彼は、驚いた様な呆れた様な、いつもは見ない様な顔をしている。
そんな中、『お待たせしましたー』と、店員さんが頼んだメニューを持ってきてくれた。
カツサンドとハムサンド。
固まった空気のまま、手をつけられるわけでもなく、安室さんの言葉を静かに待つ。


「…ひとまず食べましょうか。」

「あ…はい…」


なにを言われるのだろうかとドキドキしていると、帰ってきたのはありがたい提案だったので、さっさと賛同してハムサンドを手に取る。
ゆっくり味わいつつも、いつもと何かが足りないような感覚がして、自然と眉が寄っていた。


「夢さん、どうかされましたか?」

「…いつもと味が違うなって…正直に、ポアロのハムサンドの方が好きです。」

「夢さんのお決まりメニューですからね。」

「そうですね。」

「そう言われると、作り甲斐があります。」

「え、あれ安室さんが作ってらっしゃったんですか?」

「はい。」


料理もできて、手先は器用で物知りで、車の運転も上手で気がきくとは、ハイスペックもいいところすぎて思わず気劣りしてしまう。


「それで、他でご飯は食べてないんですか?」

「はい。なので、私の体は安室さんに寄って保たれているって事ですね。」

「…それは…ご自身でお料理はされないんですか?」

「できないんですよ。料理…」

「え?」

「かと言って教室に通うほどの熱意もなくて…一時は梓に教えてもらってたんですけど、あまりにも生傷が絶えないからと止められてしまいました。」


壊滅的な不器用。
それが私の欠点の一つである。
毎日コンビニ食を極めていた私が、今こうして毛艶よくいられるのも、全てはポアロに通いだしてからだ。
それまでは、たまに様子を見にきてくれていた梓でさえ引くほどの様相だった。


「…それは、困りますね…」

「そうなんです。でも、今はハムサンドが美味しいからいいかなって。」

「…もし、夢さんがご迷惑じゃなければ、」

「…はい?」

「僕が料理をお教えしましょうか?」




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