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耳に付けられた異物に違和感を覚えながら、珍しく着飾ったいくらするかもわからないパーティドレスの着慣れない感覚に、少し息を吐く。
『付け心地と着心地はどうですか?』
「いいとは言い難いです。」
『慣れてください。』
聞かれた言葉に正直に返せば、そっけない返事を返された。
つい以前まで穏やかに対応をしてくれていた人と同一人物だとは思えない。
『夢さんはとりあえずいつも通りに担当編集の方に挨拶をしてください。』
イヤホンから指示が聞こえて、私は黙ってその見知った顔である担当編集に近づいた。
「東さん、こんばんわ。」
「あぁ、花元先生!お待ちしてましたよ!新作についてご意見を伺いたいという方がたくさんいらしてるのよ!」
「それは…光栄です。」
「ほら、行きましょう!」
「はい。」
担当編集のテンションがいつも以上に高いのは、私がパーティに参加したいと言ったからだろう。
こう言った賑やかな舞台にはなかなか顔を出さないので、今まで一身に私に対する話を請け負ってくれていた。
次第に申し訳なさが湧き上がる。
しばらく連れ回され、色んな人からの挨拶を受けていると、耳に音声が流れた。
『一度バーカウンターに水を取りに出てください。』
「すいません、私喉が乾いてしまって、バーカウンターに行ってきます。」
「あら、そう?まぁ、粗方挨拶は終わったし…ひとまず自由にしてて。」
「はい。ありがとうございます。」
スカートを翻し、バーカウンターに向かう。
そこには、良く知った顔が1人、グラスを拭いていた。
「お水ください。」
「かしこまりました。」
「…初めてお会いする方がたくさんいらっしゃって、少し気疲れしてしまいました。」
「なるほど、それは疲れてしまいますね。」
「そういえば、大槻先生と中川先生の姿がしばらく見えないですね。あと、山本編集者。」
「ご挨拶はお済みではないのですか?」
「済みましたけど、その時にお伺いしたお話がとても魅力的で、もう一度お尋ねしたいと思ったんです。」
「なるほど。」
「その時に同席してらしたのは、河合先生と…あと…あれ?」
「友永先生。」
「あ、そうです。」
「お待たせしました。お水です。」
「どうも。」
言いたいだけ言って、私はそのお水をちまちま飲みながらバーカウンターを後にする。
詰めが甘かったなぁなんて思いながらも、初潜入としては上々ではないのだろうか。
「その力を、我々に貸して頂きたい。」
そう告げて、あの日彼が私に見せてきたのは警察手帳だった。
話がわからない私に彼自身から説明を受けていくと、その内容は複雑だった。
彼は警察としてその素性を隠すために、
探偵をしているだとか、私に接触をしたことがある人物のうちの誰かが重要参考人だとか。
私に対しても最初は疑いの目がかかっていたそうなのだが、それを調べるために、彼は私に接触を図ったらしい。
「そう、ですか。」
徒然と言われて、頭が混乱しつつも、なんとなしには理解できた。
「それで、協力って?」
「…貴方のネームバリューと、その優れた洞察力の深さを利用させてください。」
包み隠さず、私のような小さい人間を捕まえて、利用したいと宣った。
「なぜ、私なんですか?」
「そうですね…貴方でなくてはならない理由はありませんが、僕は貴方がいいと思ったからです。」
理由になっているようでなっていない。
個人的好意で決めてしまっても良いものなのだろうか。
良いか悪いかなんてわかりもしないけれど、あまり期待通りではない答えにもう一歩足を踏み込む。
「どうして、私が良いと?」
「…そうですね。」
彼は、考え込むそぶりを見せる。
正体を明かした以上、私に協力をさせたいのだろうということはわかる。
何故なら、今まで隠し切っていたことなのだ。
安室透として、あそこでバイトをしていたということは、その身分証さえも作り込んで、私たちに接触していたということだ。
見せられた身分証に書かれた、降谷零と書かれた本人の写真は、私が知る彼よりも鋭い眼をしている。
「強いていえば、」
彼から続く言葉に、耳を傾けた。
「貴方の紡ぐ言葉の一つ一つがとても美しいからでしょうか。」
そうして、何時ぞやに私が喜んだ言葉を、彼は打算的に口にしたのだった。
確信犯のような笑顔を見せながら。
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