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彼らの間で、私たちのような存在を協力者と呼ぶらしい。
そう知ったのは、私がそうなってから3ヶ月ほど経ってからだった。
私の初めての潜入捜査は功を成したのか、その後すぐに所要人物の逮捕に至ることができたそうだ。
努力した甲斐があるものだなぁなんて少し胸をなで下ろす。
そこから、何度か事件のお手伝いをすることとなった。
どれも以前の潜入捜査のようなものなのだが、私はその合間で、いつもと変わらず喫茶店に行き、原稿を書いて、料理の練習をした。
最も一番最後のものに関してはめぼしい成長は見られないのだが。
「で、それは?」
「鯖の味噌煮になりたかったものたちです。」
「…人には得意不得意があるので、特に深くは言いませんが、何故こうなるんでしょうか。」
「私も何故だろうって思ってます。」
深く言わない分浅く強く傷つけてることに気づいてほしい。
彼は少しずつ私の部屋に通うようになった。
喫茶店に行かない日は決まって様子を見にくる。
私1人だと食生活が乱れ尽くしているからだと言っていたが、真意はわからない。
いつからか、玄関を開けるのも億劫になって鍵も渡したので、彼のセカンドハウスとなっていることだろう。
いや、むしろセカンドでは足りない気がする。
彼からは色んな香りがするのだ。
一つの部屋からの匂いだけでは絶対にない。
まぁ、立場的にもお給金的にも中々に良さげな生活を送ってる片鱗は垣間見える。
あぁ、そんな仕立てのいいスーツを適当に椅子にかけたりしたらもったいない。
口にも出さずにハンガーを用意してそれを掛ける。
「難しそうな書類ですね。」
「まぁ。」
私が一人、食事を取っている間に、彼はダイニングテーブルに背を向けて置いてあるソファに腰掛け、印字の多く入っている書類を眺める。
この距離からでもわかるその白黒加減に、なんだか少しチカチカして私は目の前にある無残な鯖を見下ろす。
ちなみに、過去に一度、彼が来た時にコンビニ弁当を食べていたことがあった。
彼はそれを見てすぐ、盛大なため息と呆れた顔を見せた。
そして、私にすぐ準備をさせて、なにやら車を走らせたかと思えば明らかに高級そうな個室のフレンチレストランに連れて行かれた。
私はそれ以降、何も言われはしないが、自炊をするようにしている。
「…夢さん。」
「はい。」
「少し、頼みごとをしてもいいでしょうか。」
「はい。」
彼は決まって、私に”仕事”を頼む時にこう切り出す。
私は内容など聞かずに、了承の返事をする。
それを聞いてからすぐにご飯を少し急いで食べきる。
鯖を食べきったところで、一息ついて、私はソファに向かい、彼の横に座る。
「なんでしょうか。」
「とあるパーティで、この人物に接触してください。」
手渡された顔写真を眺める。
お金をたくさん持っていそうな肌つやの良いその顔を覚える。
左の目の下にあるほくろがチャームポイントなんだろうな、なんて心の中で小さくつぶやいた。
「ドレスは、僕が用意するものを着用してください。」
「わかりました。」
「他に必要なことがあれば、また連絡します。」
「お疲れ様です。」
必要なことを言い切って、彼はハンガーに掛けられたジャケットを手に取り、それを着たとき同様着用して、部屋を出て行った。
見送ることもなく、その写真を眺める。
私が、彼の協力者と呼ばれる存在になってから、彼から私に対する愛想と言うものは、ポアロ以外で対面することがなくなった。
それは、彼なりの仮面の付け替えなのだろう。
オンオフとは言いがたい。
なぜなら私と会うのも、公安警察と呼ばれるその仕事の一環に過ぎないからだ。
公安警察としての彼、降谷さんは私に愛想よりも明確な仕事の指示と、現状の健康維持を優先しているようだ。
それに対して特に感情が動かされるわけでもなく、私は彼のその小さい期待に体を動かすばかりだった。
そう、決して私に対する期待というものは大きいわけではない。
ほんの一手入れるだけのポーンのような。
ちっぽけな存在でしかないのだと、私は解釈している。
そしてこれが、あながち外れではないんだろうなと思っている。
なぜなら、私は彼の存在を公安警察の降谷さんということ以外、仕事の内容も、ましてや他の警察官の方のことすら、何も知らないからだ。
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