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静かに息を吐く。
いつかに見た彼女が、薄暗い部屋の中で話していた。
その声も姿もまだ見覚えがある。
そして、彼女は微笑む。
その笑顔は、あまりにも母である大女優と同じ顔をしていた。
何度見ても、どの作品を見ても、それは違和感なく張り付いて見える。
彼女は、天才だった。
それこそ母である大女優と同じように。
本人だと言われても、違えるほどに。


「電気もつけずに何を見ているんですか?」


唐突に声が聞こえて、私はびくりと肩を動かした。
今まで見ていたDVDを持っていたリモコンで止めて、そちらを振り向く。


「…お疲れ様です。」

「僕に何か言いたいことがあるのであればどうぞ。」

「でもそれ、答えてくれるわけではないですよね。」

「物によります。」

「たぶん答えてくれなさそうなのでいいです。」

「そうですか。」


今日は喫茶店にも顔を出しているので、彼が来るとは思っていなかった。
とすると、残る目的は一つだけだ。


「お手伝いですか?」

「えぇ。今回もパーティがあります。」

「そうですか。」


渡された写真は3枚。
その中に見覚えがある人物がいた。


「あれ?」

「どうかされましたか?」

「私、この人知っています。」

「え?」


重なって渡された写真の内の真ん中に入っていた写真を眺める。
それは、まじまじ見ても違えることがない、記憶にある人物だった。


「どこで?」

「編集社で、私が打ち合わせでお伺いした際にいらっしゃっていて、ご挨拶させていただきました。かなりの愛読家で、私の本もご覧いただけたとかで…。」

「…その際になにか渡されませんでしたか?」

「あ、はい。」


聞かれて、私は次の言葉を待つ前に、写真に写る男性から渡された本を手渡した。


「中身は?」

「普通の本でしたよ。なにかメモのようなものはありましたけど。」


開いて、そのメモを渡す。
そこには、よく分かりもしない数字の羅列があり、私はきっと読んでるときにはさんで忘れてしまったのだろうと軽く考えていた。


「…夢さん。」

「え?」

「ありがとうございます。」

「あ…はい。なにかお力になれたのであればなによりです。」


なにか満足げな顔をした彼を見て、また働けたのだと小さく安堵した。
彼は、そのメモをポケットにしまいこみ、私に本を手渡してきた。
久しぶりに、愛想のない彼の満足気な顔を見ることができて、小さく手に持つそれを撫でる。


「…そういえば、夢さんは協力してくださっているのに、特に深く聞いてこられないですよね。」

「聞かれたいんですか?というか、聞いて答えられるようなものってあるんですか?」

「…物によります。」

「じゃあ、いいです。」

「詮索しようとはされないですよね。」

「…知らなくていいことだって世の中にはあるんだと思ってます。何事でも。」

「…そうですか。」

「それに、降谷さんが警察だと身分も見せられていますし、それ以上は疑っても聞けることはないと思いますので。」


先ほど返してもらった本を、部屋の本棚にしまいこむ。
聞いて、必要のあるものとないものをしっかり区別する。
そして、必要だと思ったことはたずねるようにはしているはずだ。
例えば、潜入捜査セットの使い方とか。


「あ、じゃあためしに、一つ聞いてもいいですか?」

「はい。」

「安室さん、どこのお家かわかりませんが、ワンちゃん飼ってませんか?」

「え?」

「毛が。たぶん、スーツの日じゃなくて、ポアロスタイルの日だと思うんですけど。」

「…そうですね、飼ってますよ。」

「お名前は?」

「ハロといいます。」

「お写真は?」

「…撮ったことはないですね。」

「そうですか。」


少し残念な気持ちになった。
どうせなら、あの安室さんがかわいがるワンちゃんというのを見てみたいものだ。
それに気づいたのか、彼は小さく笑って、私に言った。


「今度、撮ってきますよ。」

「…ありがとうございます。」


その薄らとした、でも温かい笑みに、不思議と釣られて笑顔になる。
彼は、今までに見たことのない穏やかな顔だった。




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