似合いのひと


その晩もただ辰馬と呑んで、潰れて、くだらない事を喚きながら付いた傷を舐め合うだけの筈だった。

お前があんなことを言い出さなければ、俺達は平生と変わりない、くだらない日々を送れていた筈だ。そうじゃねえか。


「のう銀時」
「あん?」
「雀は、どがな男が好きなんじゃろうか」
「はぁ…………は?」


いきなり何を頓狂な事を言い出すのかと俺は努めて明るい調子で笑ってやろうと思ったのに、振り向いて見た辰馬の顔が阿呆みたいに真剣だったおかげでそれが出来なかった。

俺は変な寒気を感じながら上手く開かない口で、

「何でンなこと聞くんだよ」

と茶を濁した。随分と息苦しかった。

これはまずかった。愚問だ。
辰馬が、というより男が、女についてこの手の事を聞く理由なんぞ一つしか無かったろうに、あの時の俺はその事実を考えまいとしていた。

案の定辰馬は何も答えはしなかった。
代わりにまたあのよく通るいつもの声で「教えてくれんか」と言ったのだ。
目は俺をしっかりと見ていた。


だから俺は徹底的に辰馬とは真逆の男を挙げてやったんだ。

髪は真っ直ぐ裸眼の細面、酒も女もやらず大口開けて笑わず、落ち着いた、知的なキマジメ文学青年。
アイツはそれらをクソ真面目に聞きながらふうむと唸って頭を掻いていた。
頭が空の辰馬のことだから、俺の言葉を真に受けたんだろう。
上手いこと辰馬に入れ知恵することに成功した。

しかし、俺はその様子を見てざま見ろとほくそ笑みながら、内心焦っていた。

雀を取り巻く微妙な俺達の関係はまだ旧友止まりで、かといってその一線を誰も越えようとはせず、俺もそれで良いのだろうとぬるま湯に浸かっていたのに、あの時に限って辰馬が妙な積極性を発揮して抜け駆けしようとしやがった。
俺は動揺したのだ。

自分が辰馬に負けると思ったからだ。

辰馬は俺達のように、未練たらしく江戸を振り返らなかった。馬鹿みたいに奔放で屈託が無く、自由で。
俺はその鼻っ柱を…………

ああ、俺は言うも汚らわしい卑怯を考えている。



「はは、わしにはちいと難しいのう」

「そうだな」

「おんしもそがぁに変わらんぜよ……その頭じゃあちいと、な」

「ああ」

「でもわしゃあ諦めんぜよ」



そう呟いた辰馬の目は、奴が海を望む時と同じ色を宿していた。

やれるもんならやってみろ。
お前がその敷居を踏み越えるなら、俺だって進んでやる。

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