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手配書の人物――モンキー・D・ルフィの顔面から足を外してやり、彼と同じように片手で旗を掴む。アオイは余裕綽々と空いた手を腰に当て、それから優雅に両足を組むと、呆気にとられた顔のルフィを見下ろした。
「なんだぁ? お前」
最もな質問。未だにやつく頬はそのままに、アオイはゆっくりと口を開いた。
「俺は――」
「門の上に誰かいるぞー!」
「侵入者だ、撃ち落とせー!」
弾丸が会話を遮るように撃ち込まれ、咄嗟に目を瞑った僅かな間だった。
「あぁ! てめぇ待ちやがれ麦わら!」
標的は慌てたのも束の間、体を空中へ投げ出し、そのまま着地して先へと走り出してしまっていた。
「お、おい! まだ一人残ってるぞ! 侵入者だ!」
「なにー!?」
「だ、誰が侵入者だ、誰が!」
懸命に叫んでも撃ち込まれる銃弾、先を行く麦わら帽子――
(手間取らせやがって)
振り返ると同時。アオイが右腕を軽く振り降ろせば、ワイヤーはゆったりと弾に絡みついて全てのそれの軌道を変えた。硬い音を鳴らして、無数の弾が地上に散らばった。
「な、銃が効かない!?」
「こいつもさっきの奴の仲間だな! 怯まず撃てー!」
「だから、違うっつってんだろ!」
これ以上は拉致が明かないと腰を落としてから背を向ける。そもそも自分がさっき入隊希望をしていたのを見ていなかったのか。なんて注意力のない奴らなんだ。流石はニコ・ロビンにうつつを抜かす集まりだ。
(まぁ、あの衛兵と門兵君が何とかしてくれる、か)
視線を本島前門に向けると、麦わらが海兵を蹴散らしながら猛然と前に進んでいた。力の差は歴然。あっさりとあの門は突破されるに違いなく、だとしたら先回りをするしか彼を捕らえる方法はない。
(この距離なら、飛べるか)
アオイは未だ鳴りやまない銃声を無視し、もう一度右腕を力強く振り上げた。
ギュンと勢い良く飛ぶ切っ先は目にも止まらぬ速さで、それは上手い具合に前門の見張りの手摺り部分に巻き付き、ガリガリと装飾を削った。ワイヤーはキラキラと煌めき、虚空に直線を描いている。
空に急に現れた美しい反射に、下にいた海兵がどよめいた。
「なんだ、虹!?」
「――虹か、いい表現だ」
跳ねる。ワイヤーが一気に巻き上がり加速する。軌道に乗り、身体は弧を描く。前門まで、瞬きひとつ。アオイは直前でワイヤーを巻きとり、ぐん、と一回転して門の上に飛び乗ると、扉にくっついた状態の標的を睨んだ。その標的は――ルフィは、何故かキラキラとした目でこちらを見上げており、どこか嫌な予感がした。
「麦わら、追いついたぜ」
「おぉー! お前、その紐おもしれーな! フランキー一家の奴か?」
緊張感なく問われ、律儀にもアオイは一体何のことかと首を傾げたが、すぐに脳裏にあの水色頭の海パン野郎が浮かび――激しく顔を痙攣らせた。
「は? フランキーって、あの変態野郎のことか!? この俺があんな奴の仲間なわけねーだろ! 俺はお前の首を――」
「っと、おれ先急ぐから。またあとで人が来るからよ!」
「おいこら逃がさねぇぞ麦わらぁ!」
ケタケタと笑って前門を飛び降りる背中目掛け、アオイはペンデュラムを飛ばす。
「貫く光(シルク・ロード)!」
「うお!?」
音速を超える一閃、しかも背後からの攻撃を、ルフィは体をよじり――
(かわした!?)
未だかつて、この至近距離で自分の一閃を避けた者などいない。ワイヤーをホルダーにバシリと巻き戻すと、アオイはきゅっと顎を引き、驚いた顔をする敵を鋭く見つめた。
(手強いな)
本気でかからないと、首は取れそうもない。
「あっぶねぇなお前! 何すんだ!」
「……お前、何で今の避けられたんだ?」
後ろに目でもついてんのかと睨めば、彼はニッと笑い、拳を握った。
「勘だ!」
「は……?」
「だから、勘だ!」
勘。これは、参った。こちらの科学的に作られた道具が、たかだか目の前のひよっこの“勘”とやらに見破られてしまうとは。
――だがまぁ、だからこそやり甲斐もある。
「あ! さてはお前、本当は敵なのか? もしかして海軍か!?」
「いや? まだ違うが――」
「じゃあ良かった! 悪いけど今は相手する余裕ねぇんだ、またあとで誘いに来るから、とりあえずお前、そこで待ってろ!」
「なんだと?」
「じゃあな!」とにこやかな笑みを向けて走り去ったルフィを暫し呆然と見送り、アオイははっとした。
「何だか知らねぇが、俺はてめぇを殺しに来たんだ、麦わらー!」
「こちら本島前門! 長官、侵入者です! 麦わらと、女顔のワイヤー使い!」
「だから違うとどれだけ言やぁ、この、カス衛兵ども! てめぇら覚えとけよ!」
罵声を浴びせるも、有無を言わせぬ散弾から逃げるようにアオイは前門から飛び降りた。
「麦わら!」
正面を見上げれば、標的は――囲まれていた。
(20120602)