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 ブルックの捨て身の技が決まっても、ロビンの影を取られる。一進一退をして、戦闘は続いていた。
 なるほど、先ほど自分の技が効かなかったのはこのためか、とアオイは本体と影とが入れ替わったモリアを高くから見やった。
 自分の技も、ロビンの技も。そして今、蹴りを入れたサンジの技も――またモリヤの本体が入れ替わって無駄な一撃となるのを、アオイは歯痒く、じれったく思ってイライラとした。
 有効な手を打っても、すぐに覆される状況。――戦い難い。それが、ここにいる全員共通の認識だ。
 アオイは下へと行きたくなる気持ちと苛立ちをぐっと堪え、チョッパーの後についてオーズのタテガミのような、髪の毛のようなモサモサに身体を埋めていた。傷跡を探すチョッパーは、アオイと同じく少し神経質になっている風にも見える。

「早く見つけなきゃ、みんなが……!」
「気持ちは分かるが、焦るな、チョッパー。お前なら絶対に見つけられるよ。……俺も手伝うから」
「! うん、ごめん。そうだな……!」

 そう、チョッパーが落ち着きを取り戻して、素直に頷いた時だった。ガクンと足場が揺れたと思うと、二人は慌てて毛に掴まった。いきなり飛び上がったオーズが、倒れたロビン目掛けて腕を振り上げたのを見て、アオイは思わず身を乗り出した。

「ニコ・ロビン……!」
「アオイ、ちゃんと掴まれ! 吹き飛ばされるぞー!」

 オーズの腕が、ロビンに放たれる! と思ったその瞬間、見知った金髪がオーズに向かって飛び込み、思い切り蹴りを入れたのが視界の端に映った。流石は機転の利く奴だ、と悠長に思う間も無く、ぶわりと宙に浮きかかった身体を制御するので精一杯だったが。

(軌道が変わるのか……!)

 その不意の動きのおかげか。チョッパーとアオイ二人が掴んだ毛の間から、見るからに痛々しい傷跡が姿を現した。思わず顔を見合わせ、再度それをじっくりと見やる。

「これは……」
「凍傷の跡だ。それもかなり酷い……この腕、繋ぎ合わせてるけどもしかして……!」

 そこまで言って、チョッパーは素早く診断を終えると確信を持った顔つきになった。すぐにオーズの上腕へと飛び移り、この肩めがけて攻撃を与えるようにサンジとゾロに呼び掛けたのを見届けて、アオイはホッと息を吐いた。
 流石はチョッパーは、医者だ。こうした状況の中で的確な判断を下して動けるのだから、これまででもどれだけ一味に貢献してきたか、うかがい知れるというものだ。
 そう改めてチョッパーを尊敬の眼差しで見つめていたアオイだったが、グラリとオーズが身体を捩らせたのを察知すると、サッと顔色を変えて叫んだ。

「気付かれたぞチョッパー! そこを離れ――」
「何をゴチャゴチャ人の肩で! チビ人間め!」
「く、チョッパー!」

 エゲツない拳が肩に入った。その衝撃でアオイも吹き飛ばされそうになったが、辛うじて毛の束に掴まると、小さな丸いトナカイがその拳の中に身をかわしたのを薄っすら開いた瞳にとらえ、胸を撫で下ろした。
 オーズの弱点がこの肩ならば、自分もそこを突こうではないか。アオイがそうホルダーを構えた時には、サンジの蹴りに合わせてチョッパーがこちらへ吹っ飛んでくるところだった。すぐに意思疎通をして連携を図る彼らに、アオイは舌を巻いた。

「桜シュート!」
「おおっと!」

 避け、また毛に掴まる。そこにくっきりと刻まれた蹄の跡に、アオイはヒュウ、と口笛を吹いた。
 だがオーズに払い落されたチョッパーとサンジが空中で受け身も何もできないのは問題だろうと、急いでワイヤーを飛ばして壁にペンデュラムを突きつけた。――いける。

「おいマズイぞ2人とも! 何とか逃げろ!」
「無論、任せろよ」

 ゾロの叫びに応えるように体を弾ませた。
 巻き取る。一気にチョッパーからサンジへと背面から回収するように掴んで、みしりと鳴った左の肩に、なぜか笑いがこみ上げた。

「アオイ!」
「ッテメェ、クソチビ……!」
「ふふ、お迎えに上がったぜ、お二人さん」
「助かったァー! アオイ、ありがとな!」

 チョッパーの満面の笑みにアオイも仄かに笑うと、ワイヤーの巻き取りを減速させ、着地に備えた。――が。

(こりゃ、肩もつかなぁ)

 小さなチョッパーであれば問題なかったが、それなりに巨体になっているチョッパーと、細身といえどサンジ一人を抱えたとあっては、アオイの肩には荷が重い。前回のウソップ達3人の時は、それぞれがきちんと力を入れて分散してくれていたが、今はアオイ一人で2人を支えている状態だ。そもそもホルダーを構える右肩にはインパクトダイヤルを衝撃吸収材として装備しているが、左肩は小細工なしなのだ。今この状況は、スピードの力を借りていなければ到底無理というもので。
 それが減速、となれば。

 アオイは着地予測地点となる場所に目星をつけた。もう少し。もう少しだ。あと3、2、……

「ごめんダメだ」
「うわぁアオイ放すなァー!」
「……っ!」

 その瞬間、アオイはガッと何かに掴まれた感覚はあったが、来たるべき衝撃に備えて身体も脳も硬直した。

 その後、それが着地と呼べたかは、その粉塵を巻き上げた光景を見れば、誰もが口を噤んだだろう。横で転がるチョッパーを確認すると、アオイは気まずく頭を掻いた。

「……あー、失敗したかな」
「どこからどう見てもな!」
「え」

 自分の下からまさか聞こえた声にギョッとして、アオイは飛び跳ねた。
 自分は手を放したというのに、あのコンマ数秒もない間に、彼は、サンジはアオイを離さず自分を下敷きにしたらしい。

(庇われた、のか?)

 あの感覚は、サンジに掴まれたものであったらしかった。
 アオイが狼狽えて飛び退れば、サンジは肩や首周りの無事を確認するようにバキバキと鳴らし、それから服についた砂埃を忌々しげに払い落とした。
 まさかの展開に、アオイの脳内処理は追いつかない。

「お、お前、何で……」
「ぁあ? 第一声がそれか、てめェ」
「わ、悪い。重かったろ」
「なんか違うが……別に重くはねェ」

 こんな不憫な着地だったとしても、そこはやはりタフな麦わらの一味。サンジに遅れて隣のチョッパーもすぐにむくりと起き上がると、それからようやく状況に合点がいったようで、苦笑いを浮かべながらアオイを顧みた。

「アオイ、重かったんだろ。無理してくれてありがとう!」
「いや、俺に力がなかったばかりに……ごめんな、チョッパー」
「ったく、こりゃ確かにマリモの言う通り、筋トレ必須だな」
「く! 分かってるよ!」
「そこ、助かったんだからいいでしょ! とにかく次の手よ!」
「はぁ〜いナミさん!」

 ナミの声を機に、アオイは気を入れ直してオーズを見上げた。力の無さを気にしてばかりもいられない。この巨人ゾンビの弱点は暴かれているのだから。

「とにかく、右腕一極集中だな」
「よし、おれからいくぞ。あと、ウソップ……頼む」
「え? ――あ、あぁ、分かった!」

 ゾロはそう言って構えると、釣られてウソップも何かに気付いてそこを駈け去った。アオイはウソップの向かう先にある大量の塩を見て、なるほどと唸る。

「夜叉鴉!」

 ゾロがオーズの右腕に駆け上がると、足跡のように大量の刀跡が付いて、そこから一斉に血飛沫が上がった。アオイも続いてホルダーを構え、例の傷跡目掛けてワイヤーを飛ばした。

「シルク・ロード!」

 貫く感触。わざと抉るように、ワイヤーを弛ませ調整をすると、オーズが嫌そうに声を上げた。

「やった! 効いた?」
「さぁ、どうだかな……」
「また右腕か! 何度も何度も……効かねぇって言ってんのに」

(まずい!)

 アオイは急いでワイヤーを巻き取ったが、オーズの動きの方が素早かった。

「このやろうがァ!」
「――海賊狩り!」
「ゾロォー!」

 オーズの膝蹴りをまともに食らって壁にのめり込むゾロを見て、ナミが悲鳴を上げた。アオイは横にいるサンジと同じく舌打ちをした。ペンデュラムを飛ばそうにも、落ちる瓦礫の量が半端ない今は、ワイヤーの軌道を変えられてしまう恐れがあった。
 だがもしゾロがそこにいたままならば、オーズの標的にされてしまうだろう。先ず持って助からない。

(一か八かだ!)

 戦闘でまず褒められたのは、目の良さだった。だからこそ目を開けと言われたし、飛び道具でも許された。
 何も考えなかった。

 飛ばす。
 巻きつける。
 ぐん、と巻き取る。

 だが、考えなしで巻きつけたのがいけなかった。勿論そうすれば、ワイヤーに巻き取られたがまま、ゾロの身体がアオイ目掛けて突進してくるのは当たり前で――

「うわっぷ!」

 受け止められず、アオイは激突してきたゾロ諸共、後方へ思いっきり吹っ飛んだ。

「アオイ、ゾロ!」
「おい!」

 駆け寄ってきたチョッパーがゾロを抱え、サンジが再び地面に倒れこむアオイの首根っこを掴んで、ぐん、と起き上がらせた。

「さっきから何だ、そのダセェ有様は!」
「いや、返す言葉もねぇ」
「さっきのもそうだが、後先考えたらわかることだろうが」
「……そうなんだよな。俺って、こんな戦い方するタイプだったかな」
「はぁ?」
「……っと、それより、ウソップの方は」

 アオイが見上げると、モリアの影がオーズの口の中から出てきて、ウソップが放った塩は無念にも回収されてしまった。

「ダメか」
「畜生、あの野郎め。すぐに手を回してきやがる」
「モリヤはそういう奴だ。抜け目ないよ」

 苦々しく息を吐いて、アオイはウソップの横顔を見た。モリアはウソップに塩を叩きつけると、またあの高笑いをして一味を散々こけ落ろした。アオイの拳に、無意識に力が篭る。
 そう。ウソップが悔しがるように、あの塩はブルックが集めてきてくれた物で。それを、ああも嘲笑うのか。

(これが、世界政府だって? 笑わせる! 本当に笑わせる!)

 怒りに震えた、その時だ。アオイはふと視界の端に歪な影を捉えると、信じられない面持ちでサンジの裾を引っ張った。常にないアオイの動きに彼は多少狼狽えたようで、目を見開いて見つめ返す。

「な、なんだよ」
「お前さ……アレ、何だと思う?」
「はぁ?」

 示されたその先を見て、サンジはポロリと咥えていたタバコを落とした。

「ありゃア……ルフィ!?」

(20161208)
Si*Si*Ciao