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「……あなたが協力? 麦わらに?」
「ち、ちがっ!」
「しかし何で海軍の制服着てんだ?くそ、話が違うぜ……! 確か全身茶色っぽいとか何とか」
「てめぇは黙ってろ!」
吐き捨てるようにサンジを黙らせた自分の後ろでカリファが微笑むのが分かり、アオイの肩がぶるりと震え上がった。
(くそ、これでこの女に疑われたらアウトだ!)
そしたらこいつ、ぶっ殺してやるとサンジを睨み殺気立つアオイに、カリファは顎を上げ問いかけた。
「あなたは誰なの? 衛兵? それとも……麦わらの一味?」
「一味では絶対ねぇよ! 協力したつもりもない」
カリファの顔を真っ直ぐに見つめ、事実だけを伝えると、焦った声が背中にぶち当たった。
「敵だったのか……ふざけんなてめェ! おれの邪魔しやがったらオロすぞ!」
「女に簡単に蹴り飛ばされた奴がギャーギャーピーピー喚くんじゃねぇよ、煩わしい!」
「な!」
「ふふ、まぁ、あなたがどちらだとしても、どうだっていいのだけれど……」
くいとメガネを正し、カリファは淡白な笑みを咲かせる。
「どちらにしろ、疑わしい者は消すまでよ」
終 わ っ た
ゆっくりと前傾姿勢を取る。
絶対に負けられない。死にたくない。死ぬわけにはいかない。まだ、自分にはまだ、やるべきことがあるのだ。
「あら、そちらに味方するの? やっぱり一味なのかしら」
世界政府の人間に対して、手を出すわけにもいかない。やるべきことをやる、その時までは。
海軍に入るまでは。
――そして、麦わらの一味とも、やりあいたくは、ない。
(作戦、変更だ)
「……悪いが、退散させてもらうぜ」
「え?」
身を翻し、ワイヤーを扉の錠に巻き付ける。そのままサンジを踏み台に扉の前に降り立つと、アオイはワイヤーを巻き戻し錠を真っ二つに砕き割った。
「じゃあな!」
「テメェ!」
「っ剃!」
カリファが地を蹴り飛びかかってくる直前、アオイは扉の遥か向こうにワイヤーを飛ばし、急いで宙に消えた。
*
至る所が埃まみれで、壁は壊れ穴だらけだった。今この辺りで戦闘が繰り広げられている何よりの証拠だ。
(とりあえず、司法の島自体から脱出するしかない。といってもここに窓はねぇし、壁をぶち破る力も俺にはねぇから……)
やはり地道に階段を降るしかない。そう考え至り、角を曲がった。が、甘かった。
「な、なんだこれ……!」
何かにスッパリと斬られたように、下の階からずっと階段がズレて続いている。暫く呆然と惨劇を見つめ、アオイは力なく壁に寄りかかった。
(これもきっと、麦わらの一味の仕業だよな……この斬り方からして、恐らく犯人は海賊狩りのゾロ)
「どいつもこいつも、化け物だろ……!」
はぁ、と重いため息をつく。だが、ここで止まっていても仕方ない。一階まで飛び降り、ワイヤーを引っかけ身体を浮かすのが一番の得策だろう。あとは何とか逃げ切るしかない。
ダッと助走をつける。落ちる。風が上昇する。至る所から聞こえる悲鳴、打撃音。3階、2階――
(ここだ!)
身体をよじり、ワイヤーを飛ばす。壁に突き刺す。巻き取る。反動で宙に浮く。それから、減速。
アオイはスタっと地面に足を着くと、ふぅと一息ついた。
「我ながら上出来だぜ」
バシリと巻き戻し、辺りを見回す。その時、叫び声が聞こえ、何事かと耳を澄ますと、後方から誰かが近寄ってくる気配がした。急いで物陰を見つけ、じっと気配を絶つ。そうして姿を現した2つの影に、アオイは高揚した。
(――あれは!)
トナカイ!?
(すっげぇ! 本物初めて見た! 超可愛いじゃねーか!)
アレ欲しいなと欲望の籠った目で見つめていたせいか、上階から何かが落下してきた拍子で砂埃が舞い上がり、鹿の姿が見えなくなってしまった。
(あぁくそ、何が落ちてきやがったんだ!)
煙が溶けていく。トナカイと、さっき見たオレンジ頭の女、それから――
(あいつ……ぐる眉か!?)
変わり果てた姿をしたサンジに、言葉が出なかった。アオイの視界からは確認出来ないが、この仕打ちはきっと――
勝てなかったというのか、あの男が。衛兵たちを薙ぎ倒す勢いで蹴りを食らわしていたあいつが、あの女に。自分でさえ、勝てない相手ではないと思ったのに。
アオイは一味のやりとりにじっと耳を傾ける。途中参戦してきた舞台化粧が酷い奴は、恐らくCP9だろう。トナカイはそいつに一発食らわすと逃げるようにその場を離れ、ナミという女は階段を駆け上がっていった。
迎賓フロアから人影がなくなったのを確認し、アオイは意を決し立ち上がる。それから壁にもたれかかるうちひしがれた人物にため息を吐くと、踵を返した。
*
「よぉ」
「……!」
「結構なやられっぷりじゃねーの」
「……うるせェ、この、弱虫野郎が」
「騎士道ってのは立派だなぁ、紳士さんよ。ニコ・ロビンが待ってんじゃねーのか」
嘲笑うように見下ろせば、サンジは何も言い返さず横を向いた。
「だんまりか」
「…………」
沈黙。その意を汲み取ると、アオイは仕方なしにその場に座り込んだ。
「? ……な、にするつもりだ、てめェ」
「――正直、お前らの感覚は、俺には理解出来ねぇ」
咎めも気にせず喋りかけるアオイに、サンジも諦めたのか、口を閉じる。アオイはポシェットのファスナーを開けると、中身を探った。
「たった一人の仲間のために命を投げ出し、世界政府相手に丸腰で決闘状を叩きつけるなんざ、愚の骨頂だ」
「…………」
「けど、まぁ」
ことんと地面にそれを置いて、アオイはゆっくりと立ち上がった。
「――水……と、包帯……?」
「止血くらい自分でしろよ。……あ、あと」
思い出しストールの先を背中へ払いのけると、すっくと立ち上がる。それから胸ポケットから目的の物を取り出し、サンジの傍へ投げて寄越した。
「……、タバコ?」
「貰い物だ。てめぇの好みかは知らねぇけど」
「やるよ」、と言うアオイの歩みが止まらないのを見て、慌ててサンジは身体を起こした。
「……っおい!」
「――俺さ、麦わらの首取って、海軍入りするつもりだったんだ」
「な、」
豆鉄砲を喰らったような顔をするサンジに、思わず乾いた笑いが溢れる。アオイはくるりと振り向いた。笑顔のまま。
「けど、俺。お前ら一味、嫌いじゃねぇな」
「……!」
「ま、麦わらと一緒に精々頑張って生き残れよ」
アオイはそう笑うと、今度こそ地面を蹴った。
目指すは、トナカイの元へ。
(あんな動物に手を上げる世界政府は――やっぱり腐ってやがる!)
「待ってろおもしろトナカイ! 俺が飼ってやるからな!」
(20120602)