▼ ▲ ▼
サクラ咲く
「なぁ、すっげェー! すっげェぞ!」
「はは、ありがとう、チョッパー」
雪は止んで、濃紺の世界に浮かぶは静かな銀世界。その天井は、壁は色取り取りの光で柔らかく華やぐ。
聖夜の夜。ナミの特命を受けた俺主導のもと、クリスマス仕様に飾られた甲板を仰ぎ見て、チョッパーはその円らな瞳をよりいっそう輝かせた。その瞳の中、反射する炎がキラキラと踊る。背景のどんなツリーの飾りよりも、チョッパーの瞳こそが宝石のようだった。
「お前、やっぱ凄いな! おれ感動したぞ!」
「うん、俺もこの出来には満足だよ。変態とウソップの協力あってこそだな」
「みんなすっげェなァー!」
可愛らしい口を目一杯開けて笑うチョッパー。そのあまりの純粋さに、見ているこちらとしてもほっこりとした気持ちでいっぱいになる。俺は口元に浮かぶ笑みを隠せないまま、ふとテーブルの上に置いた件のランプを眺めた。一つだけチェーンから切り取った物だ。チラチラ揺れるピンク色の炎に、俺は何かが浄化されるのを感じて、目を細めた。
世間的には今日をクリスマスイブと言うらしい。どっかの偉い人が生まれた日の前夜祭だとか、お祈りだなんだとか。正直俺にはピンとこないけれど、こうしてみんなでご馳走を囲んで、美しい冬の夜空を天に、静かな海を地に。暖色の温かな光に満ちた空間の中で、ブルックのバイオリンが聖歌を奏でる、幸福を絵に描いたようなひと時。
寒いけど、あったかい。悪くない。そう思った。
「そういや、あんだけイルミネーションを楽しみにしてた船長は、もう食べるのに夢中か」
「そりゃあ、ルフィだもんな! あ、またサンジが怒った」
女性陣の料理にまで手を出したらしい船長の頭に踵を落とすコック。少しだけ輪の中心から離れた場所に陣を構える俺とチョッパーは、それを面白おかしく囃し立てては、声を出して笑った。普段のチョッパーは船長の側で夕食にありついているのだが、今日は俺と2人、イルミネーションが一番綺麗に見える特等席だ。勿論この配置には理由があり、連れ出したのは俺が与えられたミッション故。
コックが「食いモンが足りねェ」と呟いてダイニングに向かったのを視界の端で確認して、俺はおもむろにチョッパーに向き直る。
「ところで、チョッパー」
「なんだ?」
「今日ってクリスマスイブってやつだよな」
「うん、そうだぞ」
「他には?」
「ほかに……?」
チョッパーが首を傾げたのと同時、照明がフッと落とされる。それまでの光を吸収した雪は、ぼんやりと幻想的な光沢を放った。
残る光は、チョッパーの目の前のランプ一つだけ。
「な、なんだ!?」
驚きに飛び上がるチョッパーの頭を、というか帽子をポンポンとたたく。そして他のクルーが近くまで来たのを察すると、俺は胸いっぱいに息を吸い込んだ。
「チョッパー、」
「誕生日、おめでとう!」
「え!?」
パン! と一斉にクラッカーが鳴る。それから巨大なケーキを持ったコックが現れると、チョッパーの前で立ち止まった。
「チョッパー。おれ特性スペシャル誕生日ケーキだ、受け取れ!」
差し出して、贅沢で彩り鮮やかなそれをテーブルに置く。「クリスマスでもあるから、豪華だぞ」と笑いながらタバコに火をつけるコックを見上げる可愛いトナカイの横顔は、その瞳は、さらに驚きにピカピカとして。
「え、えぇえ!? おれの誕生日!?」
「そうだよ、チョッパー。あと……」
俺はランプに埋め込んだ宝石部分を掴むと、力一杯にそれを引っ張った。カチンと鳴って、それは腕輪型に外れる。勿論、このランプだけに施された仕掛けだ。
「これ、おめでとう。誕生日プレゼントだ」
「え……!」
チョッパーにお似合いの、淡いピンクダイヤモンドが埋め込まれた腕輪。形は勿論――
「気付いてたか、チョッパー。このランプの――腕輪の、宝石部分の形」
「も、もしかして……サクラ!?」
「正解」
蹄型にカットした5つのピンクダイヤを、花弁に見立てた特製品。チョッパー以外に、これを身につけられる奴なんていないのだ。
「ここにいるみんな、全員スポンサーだぜ」
「え?」
「希少なピンクダイヤモンドの資金元は(主に)ナミ財布から。確かな信用できる宝石商の紹介はロビンのツテ。チョッパーに合うデザインの図面を引いたのはウソップで、腕輪部分の作成は変態と俺の共作。海賊狩りは寒い夜作業する俺たちに酒を分けてくれたし、コックは夜鍋3人組に夜食を差し入れてくれた。ブルックは、眠らない日に付き合って横で楽器を弾いてくれた。……船長は、そうだな。気合いをくれたかな」
「ニシシ! いつもチョッパーには世話んなってっからな!」
「ふふふ、綺麗ね」
「チョッパー、絶対似合うわよそれ!」
「どぅーだ! おれさまの会心のデザイン!」
「それをスーパーな武器に改良したきゃア、おれに言えよ!」
「ヨホホホ! この世に一つって感じですねェ!」
「チョッパー、シャンメリーもあるぜ。飲むか?」
「ぁあ? ンな子供騙しより酒だ、酒」
ガヤガヤとクルーが笑い合う中、その瞳に涙を浮かべたチョッパーが、腕輪をはめて。
「エッエッエ……! みんな、ありがとうな! おれ、しあわせだ」
ピンクダイヤモンドよりも、何よりも輝いた――笑顔を咲かせた。