閑話 暇を持て余したスタンド使い達の遊び

インドへ向かう船に乗っていた時のこと。
暇を持て余しているせいかなんとなく皆で同じ場所にいた。

「あー暇だなー」
「ポルナレフ、それもう十五回目だぞ」
「トランプも飽きたな……おいジジイ、あとどれくらいだ」
「あと半日ぐらいじゃないか?せめてテレビでもあったらのう……ん、烈子スタンドで何見てるんじゃ?」
「どっかの映画館の映画です。音がないので飽きました」

私はガラス玉をしまって大きく伸びをした。

「はぁ……暇だし水面でも走ってこようかな」
「暇だからやることのレベルが高すぎます」
「のぞき窓から走ってるお前が見えたら面白すぎるから止めろ」
「漁師に伝わる伝説の妖怪にでもなる気か」
「散々な言い様ね」

花京院ポルナレフ空条にボロクソに言われたので大人しく座った。

「あ〜何かすぐ出来るようなゲーム無いのかよ花京院」
「僕に聞くな……でも、そうだな──王様ゲームでもやりますか?」

花京院はそばにあったメモ帳を細く切り、何か書き始めた。

「皆でこの紙を引いて、この王冠の柄を引いた人が王様となって命令を出せるってゲームです。名指しではなく番号で、ですが」
「へーぇ、なんか物騒なゲームねぇ」
「いいじゃんやってみよーぜ」
「ハハハ、日本の若者の間で流行っているのか?」
「えぇ。僕はやったことありませんが」

「やってみたかったんですよね」という哀愁混じりの声に、参加せず仮眠を取ってこようと思っていた私も思わずくじを引いてしまった。
スタンド見えない人とは徹底的に距離置こうとするな花京院は……。

最初の王様はポルナレフだった。

「お、よっしゃ!じゃあ四番がおれの良いところを言う!いくつでもいいぜェ〜」
「あるならね」
「烈子〜おめーなあ……ふん、でも四番の奴がおれの良いところをたくさん言ってくれるから耳かっぽじってよーく聞きな!四番誰だ!?」
「私です」
「お前かよ……」

ポルナレフは落胆し、他の皆は笑った。

「心配しなくてもちゃんと言うって。えーと……アミノ酸がある」
「おい」
「それからァ〜……細胞がある!微妙ながら体温がある!脈拍がある!生きているんだポルナレフは!」
「もうツッコまねーぞおれは!」
「うそうそ。ポルナレフは社交的でムードメーカー!スタンド像がかっこいい!」
「あーそーかよ……」

次の王様は花京院だった。

「えーとどうしようかな……じゃあ二番が初恋の人の名前を言う、で」
「うお、わしだったら覚えてないから答えられなかったわい」
「中々照れるお題だな」
「いねーならいねーって答えていいんだろ?」
「はぁ!?初恋くらいいるだろ!……で、二番誰だ?」
「私です」
「またか!」
「それは私の台詞だと思う……ちょっと照れるからジョースターさんの前では言いづらいなぁ」

もじもじしていたらポルナレフがにやにやしながら肘でつついてきた。

「そーいや自分のじいちゃんからジョースターさんの話聞いてたんだって?」
「おや、これはもしかすると」
「わはは!照れるのう」
「さっさと言え」
「豪さん、王様の言うことは絶対ですよ」
「え〜?じゃあ言っちゃおうかなぁ〜」

皆がからかってきて少し恥ずかしかったが、私ははっきりと言った。

「ワムウです」
「誰だよ」

空条がすかさずツッコんだ。

「ワムウっていうのは柱の男の一人で戦闘の天才で風を操る男で必殺技は神砂嵐でジョースターさんの心臓に毒薬入りの結婚指輪を埋め込んで決闘をするように仕向けるんだけどシャボンの戦士シーザーと死闘を繰り広げて勝った後彼の死に様に敬意を表して彼が奪った解毒剤入りのピアスを奪い返さずそのまま見逃して戦車戦の決闘でジョースターさんに破れるもジョースターさんの成長に感服して、」
「長い長い長い!てっきりジョースターさんって言うかと思ったわ!しかもそいつ敵じゃねェーか!」
「それはそれこれはこれ」
「ワムウか……確かに奴はすばらしい戦士じゃった……フ、シーザーの名も久しぶりに聞いたのう」
「話長くなりそうだから次いくぜ」

次の王様は私だった。

「よし!私が王様、いや女王様!」
「うわー死人が出るぜ」
「出すかァ!えーと三番!──なんか適当に面白いことやって」
「無茶ぶりが過ぎるな」
「何だかんだで一番嫌な命令ですね」
「三番は誰じゃ?」
「おれだぜ」

私含めた皆で同情するように空条を見た。

「承太郎か……」
「え……ごめん。自分で命令しといてなんだけど」
「よりによって一番そういう事やんなそうな奴が当たるとはな……」
「おいおい舐めんなよ。とっておきのやつを見せてやるぜ」
「え、なんかあるの」
「ああ。よーく見とけよ」

そう言うと空条は五本のタバコを口に咥え火をつけた。
そしてなんとそのままそれらを大きく開けた口の中にくるりと反転させてしまい込んだのだ。口を閉じても火は消えていないのか鼻から煙が出ている。
これには全員拍手喝采で空条を称えた。

「すごー!女王感激!」
「やるじゃねぇか承太郎!」
「い、いや、まだ何かやるみたいだぞ!」

さらに空条はおもむろにジュースを手に取り、それを飲んで見せた。
すごいがさすがに火は消えたんじゃないかと全員で黙ってじっと見ていたら、空条はタバコを再びくるりと反転させて最初の咥えていた状態に戻した。
なんと驚くべき事にタバコは火がついたままだった!
観客から割れんばかりの拍手が惜しみなく彼に送られる!

「ブラボー!おお、ブラボー!」
「すごいじゃないか承太郎!」
「いやー良いもの見せてもらったわ」
「よく火傷しなかったな」
「器用じゃの〜さすがわしの孫」
「ふん」

王様ゲームはなかなかの盛り上がりを見せ、全員が王様になるまで続いた。
そうして港に着くまで目一杯暇つぶしをした我々だった。