「うん?」
「やっぱ良く来んの?カラオケ」
「そう、だね。週一ペースくらいかな」
「そんなに?」
「普通に歌いたいし、練習もしたいし。ライブが近かったら週二で来たりするよ」
受付を書いている佐藤の背中を眺めつつ、斜め上から降ってきた声に言葉を返す。
必死に宥めた甲斐あってか、黒尾くんが隣にいる状態には、この短時間でずいぶんと慣れた。直接話すのはまだ緊張するけれど、言葉は浮かぶし喉だって詰まったりしない。
「ボーカルってそんなもんなの?」
「さあ、どうだろ。私だけかも」
「へえ。熱心」
「黒尾くんほどじゃないよ」
「え、俺?」
驚いたような声にこくりと頷いたところで、カゴを持った佐藤が「一番だってよ」と振り向いた。なんとなく、黒尾くんの背番号だなって思った。
いつもの、と佐藤から託されたグラスへ、氷をカラカラ。先に部屋へ入っていった彼用のジンジャーエールを注ぎ、ドリンクバーを前に悩む。
何にしようかなあ。別にどれを選んだって大差はないし、飲み放題なんだから全部順番に飲むことも出来る。分かっているけれど、いつも迷ってしまう。どうしようかなあ。ピーチスカッシュも捨てがたいし、ブレンドコーヒーも美味しそう。でも、あんまり待たせるのはよろしくない。特に今日は彼がいる。
「黒尾くんは何飲むの?」
「んー……白ぶどう」
「じゃあ私もそれにしよ」
黒尾くんがいれ終わった後、同じ位置にグラスを置くと、続けてボタンを押してくれた。お礼と共に見上げれば「どういたしまして」って、にっこり。余所行きの笑顔にさえ、単純なこの胸は容易く鳴る。
俺持とうかって申し出てくれたり、両手が塞がっている私の為に扉を開けて待っていてくれたり。些細なところで自然に差し出される気遣いが、なんともくすぐったい。黒尾くんの優しさは、いつも温かかった。
テレビを向かいに設置されているU字型ソファ。その右側でくつろぐ佐藤の前にグラスを置くと、なぜか真ん中を指定された。必然、反対側に黒尾くんが座る。さっき歩いている時もそうだったけど、私を挟んでいくスタイルのこれは何なのか。佐藤なりの気遣いかな。まあ画面は見やすいからいいか。
「お前声出しからいく?」
「もちろん。あ、先歌ってくれていいよ」
「だって。黒尾何歌う?」
「いや、僕聞き専なんで」
「嘘つけー」
ケラケラ笑う二人につられ、私の頬まで緩む。思った以上に仲良しらしい。聞けば、さすがに二人で遊んだことはないものの、数人でなら何度かあるようだった。
早速「こいつ歌上手いの」と黒尾くんを指差して、ハードルを上げにかかった佐藤。冗談半分に「楽しみですなー」って返したら「いやいやいや」って黒尾くんも笑った。
まあ私はその声自体が好きなので、もう何でもいいです。ほんと佐藤有難う。こんな仲良しならもっと早くにセッティングしてくれてても良かったんだよコノヤロウ。
心の中で何度目か分からない感謝と文句を述べつつ、黒尾くんにデンモクを差し出す。一瞬触れた無骨な指先。跳ねた肩は、たぶん気付かれたと思う。一瞬瞳を丸めた黒尾くんが「ドーモね」と、緩やかに口角を上げた。心音が跳ね上がった。