きみの世界にいられるのなら



たわいない話を二つほど挟み、そう言えばと思い出したように切り出されたのは治とのこと。やっぱりと言うか何と言うか、たぶんこれが本題だったのだろう。

『付き合うたんやってな。おめでとう』

珍しくストレートに投げられたお祝いに有難うを返す。


「治から聞いたん?」
『おん。聞いたってか、邪魔すんなって感じやったけどな』
「えー、ちょっと再現してみてや」
『リームー。もーほんまガチやったんやって』
「まじかー」


澄ました顔で威嚇している治がなんとなく浮かんで、ちょっと可笑しい。つい笑ってしまったら『何ニヤけとんねん。気持ち悪っ!』って間髪入れずに貶された。うるさいなあ。でも相変わらずで良かった。この調子じゃ、侑が私を好きかもなんて、そもそも有り得ないだろう可能性の心配はしなくて良さそうだ。


『まあ仲良うしたってや』
「勿論や。ごめんな、治とってもうて」
『何で謝んねん。清々しとるわ』
「後なんか、侑が私のこと好きなんちゃうか疑惑出とーから解いといてな」
『え、めっちゃおもろいやんそれ』
「いやおもろないねんて。こっちは真剣やで」
『あー……』
「なに」
『やー、隣の芝生は青いって言うやん?』
「まさか人のモンやと欲しなるタイプかあんた」
『せやねん』
「………」
『………』
「………えっと」
『あ、お前はないで?』
「…今のくだりいる?」
『ふっは!』


スマホの向こう側。盛大に吹き出した侑に溜息を吐く。全くこの小悪党は。一瞬本気でどうしようか考えた時間を返して欲しい。「ほんなら問題ないやんな。頼むで」って改めて念押ししながら廊下を進む。そろそろ帰ろう。並んでいる靴箱の内、自分の靴が入っている場所へと曲がる。

刹那、視認出来た人物に足が止まった。片足に体重を乗せ、靴箱へ背中を預け、片手をポケットに突っ込んだままスマホを見ている猫背。静かな瞳がこちらを向く。


「誰と喋っとん?」


治の声は、責めるように聞こえた。



<< back >>