一緒に帰らなくなって、教室へ会いに行くこともやめて、苦し紛れにバイトを始めた。毎日が味気なくってなかなか想いは消えなかったけれど、それでもまだ、女友達と笑えるくらいには元気を取り戻した寒い寒い冬の日。
お先に失礼しますってバイト先から外へ出て、息が詰まった。
「お疲れさま」
「……何で」
「ここでバイトしてるって聞いたから」
会いに来た。
そう微笑んだ松川に、胸が鳴った。嬉しいのと痛いのと、たぶん半々。私服姿ってことは一旦家に帰ったんだろうけれど、それでもこんな寒い中ずっと待っていてくれたのか。マフラーで覆いきれていない鼻先も耳もずいぶん赤い。雪が降ってるっていうのに、そんなコートじゃ風邪引いちゃうよ。
「真っ直ぐ帰る?」
「……うん」
「良かった。送ってく」
「そのために待っててくれたの?」
「ん」
「わざわざ?」
「そうだけど、ダメだった?」
「……ううん。そんなことない」
なら良いでしょって引かれた手。初めて触れた松川のそれは、私の手なんて簡単に包めてしまうくらい大きくて温かくて、するりと絡まった指は思った以上に節張っていた。久しぶりに近くへ感じる彼は、もう男の子じゃなくて男の人だった。
ぎゅ、ぎゅ、と雪を踏む度せり上がる熱。
やっぱり好きだなあって思う。息がし辛い。あんまり苦しいものだから、結局自分からは何も聞けずじまいで。久しぶりだねとか、バイトどんなことしてるのとか。電車に揺られながらぽつぽつこぼされる松川の穏やかな声に、ただ返事をするだけ。
「あの、」
「ん? 何」
「ありがと。送ってくれて」
「どういたしまして」
門を開けて三段上がった玄関先で振り返る。視界の真ん中には、見上げなくたって松川がいた。「またネ」って振られた手。ついさっきまで、繋いでいた手。ねえ、またってどういうこと。これは何を意味するの。何度もフったくせに、何で今更期待させるようなことをするの。怒り混じりに浮かんだ言葉は、けれど、どれも声にならなかった。
恋人じゃなくてもいい。好きって言ってもらえなくてもいい。ただ手が繋げて、家まで送ってもらえて、またねって言ってもらえるなら、その関係に名前なんかなくてもいい。たった一瞬でも、そう思ってしまった。