わたしの心臓のなかで生まれた残骸



松川の手の感触とか、温もりとか、肌触りとか、声のトーンとか、ボリュームとか、眼差しとか。私の五感に残るそれら全てに痛いほど胸を締め付けられながら眠った翌日。いつも通り登校して、退屈な授業を聞き流しながらノートをとる。新着メッセージの通知が届いていることに気付いたのは、お昼になってから。


松川一静。

目に飛び込んできた差出人名に鼓動が揺れた。「お昼食べよ」って友達の声がなんだか遠い。どころか、教室中の音という音全てがこもって聞こえる。まるで膜一枚隔てたよう。弱ったなあ。まだ諦め切れていないなんてみっともない。


内容は至ってシンプル。

『今日バイト?』

それだけ。


別に身構えるようなことじゃない。ただバイトの有無を尋ねられているだけ。何時までとか迎えに行くとか休みならどうとか、そういう具体的な話じゃない。なのにどうして、こんなに心が疼くのか。鼓動がどくどく煩くて、しちゃいけない期待がいちいち湧き上がって。ダメだって分かってるのに、返事を打つ指が勝手に動く。


『違うよ』


だって好きだった。どうしようもなく好きだった。遊ばれていたとしても二つ返事で許せてしまうくらいに好きだった。そんなちょろいこの心を手のひらで転がして、一体松川はどうしたいんだろう。昨日といいこのメッセージといい、どういうつもりなんだろう。


『今教室だよね』
『そうだよ』
『そっち行っていい?』
『ダメ』
『何で(笑)』
『友達と食べてるから』
『良いじゃん。俺気にしないし』
『私が良くないの』
『何で?』


今まで彼からこんな風に接してくれたことなんてなかった。私が離れたところで何とも思わないはずだった。松川にとっての私はせいぜいお友達で、それ以上にステップアップすることはなくて、ただ自分のことが好きな女程度。いなくなったところで支障はない。気にもかけない。痛くない。痒くない。ねえ、そうでしょう。


『独り占めしたくなるから』
『俺を?(笑)』
『うん』


そうだって言ってよ。


『ほんと俺のこと好きだよね』
「っ、」


分かってるなら放っておいてよ。
もうしんどいよ、松川。



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