息苦しく煮えきる純心



「そんなことないけど、やめて欲しいの」


何から話そう。どんな言い方をしよう。そんなあれこれを考えるより先にこぼれ出た言葉は、悲鳴に似ていた。それでも声が震えることはなかった。この鼓膜が正常であれば、我ながら哀愁が入り込む隙間もないほど毅然としていた。


「ちゃんと諦めるから、もう私で遊ぼうとしないで」


松川の表情は見えない。見ない。視界にはブレザーの白。冷たい風が過ぎ行き、降りた沈黙に目を伏せる。

これで終わり。全部終わり。長い長い片想いが眠りについて、残された私は抜け殻になる。また次の恋が探せたらいい。そうなれるように頑張ればいい。別段強くはないけれど、だからと言って弱くもないつもり。そんな"大丈夫"を大丈夫になるまで繰り返していけばいい。


伸ばされた手に、半歩下がって肩を竦める。初めてに近い私からの拒絶を松川はどう思ったのか。一瞬固まった指先が躊躇いを以て彷徨う。無機質なさよならを覚悟する。けれどもう一度寄せられた無骨な指先はひどく優しく、まるで宝物を愛でるように私の眦をそっと撫でていった。


「遊んでるつもりはないよ」
「うん。嫌な言い方してごめん」
「それは良いんだけど、何で?俺のこと好きじゃなくなっちゃった?」
「……」
「みょうじ?」
「好きじゃないのは……松川の方でしょ……」
「……、」


拳を握った一秒先。まだ優しいままの指先が、こめかみから後頭部へ伝う。そうして囚われた。

背中を抱く腕。引き寄せられた身体。遮られた視界。構える間もなく全身を覆った温もりに呼吸が止まる。さっきよりもずっと近くで、愛しい声がする。


「ごめん」


何を考えているのか。どうしたらいいのか。何に対する"ごめん"なのか、単なる慰めなのか、やっぱり好きになれないことへの償いなのか。分からない。少なくとも私は、こんな形で抱き締められたかったわけじゃない。

こんがらがった頭は最早ろくに働かなくて、目の奥が熱くて、ただ、胸が痛い。

いつもそう。いつもいつも、松川は何も教えてくれない。希望をちらつかせるだけで応えてくれない。心の内側を覗かせてもくれない。こんなに好きなのも苦しいのも私一人。ずっとそう。だって私が勝手に好きになっただけだ。松川は何も悪くない。謝る必要なんかどこにもない。なのに、何でそんな声で謝るの?



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