はじめて捨てた心臓が還る場所



つい、顔を上げてしまった。何も言えなくなるって分かっていたのに"ごめん"の意味が知りたくて。低く小さく、初めて弱さを伴って響いたその声に透けた心がどうしても気になって、点滅する危険信号には気付かない振りをした。

視界の真ん中。眉根を寄せて苦笑した松川の瞳が緩やかに細められる。未だ私を捕らえたままの指先がそうであったように、まるで愛おしむような眼差し。浮かんだ違和感は、けれど、次いで注がれた言葉に拭われた。


「好きだよ」


願い過ぎたあまりの幻聴。そんな風に思えるほど、あまりに現実味がなかった。頭の中が真っ白で、声帯の震わせ方さえ思い出せない。鼓動の音も聞こえない。指一本動かせない。まるで何もかもが止まったように感じられる時の中で「みょうじが好き」と。

待ち望んだ想いが、じわり。


「…………好き?」
「うん」
「松川が、私を?」
「そう。好き」
「……嘘」
「本当。信じられないかもしれないけど」


もう一度苦笑した松川が言葉を続ける。


「だんだん愛着湧いたって言うか、一生懸命で可愛いなって」


強く抱き締められて、指先が震える。


「言うの遅いって自覚はあるよ。ごめんネ。でも、俺だけ見てて」


漸く戻ってきた感覚が、熱を駆り立てる。鼻の奥がツンとして、せり上がった感情の波に瞬いた睫毛が濡れた。そうしてこぼれ落ちた涙が、幾度も頬を伝っていく。

「っ……」

苦しかった。悲しかった。辛かった。毎日毎日自己嫌悪と不安の繰り返しで押し潰されそうだった。そんな決して短くなかったこれまでより、今この瞬間が、ただ嬉しくて、嬉しくて。


背中へ回した手で縋りつく。夢じゃないって実感がどうしようもなく欲しかった。口を開けばみっともなくしゃくりあげてしまいそうで言葉は何も返せないけれど、もっとたくさん、松川の本心を見せて欲しかった。



「ねえ松川」
「ん?」
「何で私が告白した時は断ったの?」
「あー……」
「あの時はまだ好きじゃなかった?」
「や、途中から好きだったけど」
「けど?」
「……恥ずかしいから内緒」
「えー」


fin.




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