雲一つない真っ青な空の下。ビブスを干し終え、空になったカゴの取手を握りながら息を吐く。軽い気持ちで受けたマネージャー業に、みょうじは二日目にして、既に疲れていた。
と言っても、労働が嫌なわけではない。他クラスにもかかわらず常日頃助けてくれる夜久はもちろんのこと、誰かの役に立てることは素直に喜ばしかった。元々バレーボール観戦は好きであったし、人と話すことも苦手ではない。他校を含め、選手もマネージャーも皆が皆優しく気遣ってくれる。つい笑顔がこぼれるあたたかな環境に、不満などこれっぽっちもない。ただ、暑さには弱かった。
「あっつ……」
ぽたり。噴き出た汗が地面に滲む。ああ、汗って落ちるのか。万年帰宅部であり、殆どスポーツと縁がないみょうじにとって、ひどく新鮮な光景。
脳内に浮かんだのは、昨日の体育館。飛び散る汗が記憶の中で重なり、初めて鼓膜を突いた轟音が鮮やかに蘇る。終始ハイテンションで誰より楽しそうだった男の、強烈なインナースパイク。間近で目にした高さと速度。何より印象的だったのは、見たこともない角度で振り下ろされた腕。きっと肘が柔らかいのだろう。しなやかである音駒とはまた違った部類のフォーム。その姿が瞼の裏側でスパイクを打つ度、気分が高揚する。かっこいい、と思う。
どこの高校か。何年生か。名前は何て言うのか。そう言えば、仲睦まじげにじゃれ合っていた黒尾に聞こう聞こうと思っていながら、すっかりタイミングを逃している。
体育館に戻ったら、休憩時間にでも聞いてみよう。そう心に決めて、カゴを持ち上げようとした時。
「だ、大丈夫?」
降ってきたのは、もう脳内で何度も再生されたそれと同じ声だった。