ソプラノ・アルト・テノール・キス



互いに知り得たことは名前と学年。それから木兎が梟谷の主将であること。みょうじが暑さに滅入っていること。


「そんなら日陰行く?」
「じゃあお言葉に甘えて」
「おし。それ貸して」
「ありがと」


カゴを受け取り「どーいたしまして」と笑う木兎の優しさに、みょうじの頬もふわりと緩む。元々物怖じしない性分だからか、いくつか言葉を交わしたからか、そもそも惹かれ合っているからか。さっきまであんなに言葉を詰まらせていた緊張はすっかりほぐれ、どこかへ行ってしまっていた。


渡り廊下の屋根の下。
冷たいコンクリートへ揃って座る。


「戻らなくて大丈夫なの?」
「んー分かんねーけど、やばかったら赤葦が呼びに来るしたぶん大丈夫」
「赤葦ってマネージャーさん?」
「ううん。うちのセッター」
「そうなんだ。頼もしいね」
「だろ! すっげえしっかりしてんだぜ」


良く笑う人だ、とみょうじは思う。屈託のない得意気な笑顔で人を褒める姿に、胸の底がチリチリ燻されていく。コートの中でもそうだった。まるで太陽みたいに、明るく眩しくあったかく。傍にいるだけ、あるいは目にするだけでついつられて笑みが浮かぶ。木兎特有の陽だまりは心地よく、その大きな瞳を通して見る世界はとても鮮やかに輝いているような気がした。

もし出来ることなら同じ景色が見たい。そうせっつく柔らかな心の名前に、みょうじは薄々気付いていた。ドラマや漫画、友人との会話に良く挙がるもの。まだ経験したことがなく今いちピンとこないまま、それでも話の腰を折るまいとふんふん聞き流していたことは記憶に新しい。


「木兎くんって、皆から何て呼ばれてるの?」
「そんままかコータローか……あ、黒尾はたまにぼっくんって言うな」
「ぼっくん可愛いね」
「そうか?」
「うん。私も呼んで良い?」
「おう! なんか一気に仲良しんなったみてえで良いな」
「そうだね。じゃあ仲良しついでに、私のことも名前で呼んで」
「なまえちゃん?」
「呼び捨てで良いよ」


低くなったり高くなったり。嬉しそうなちょっと恥ずかしそうな、子どもみたいな無邪気さを孕んでいながらしっかり男の子な声に鼓膜が遊ばれる。

どこかくすぐったい感覚は、木兎も同じだった。思ったよりも落ち着いているみょうじの声は風鈴のように涼やかで澄んでいて、自分を呼ぶ赤葦の声に気付けない程、鼓動が大きく鳴っていた。



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