奪われたのはなに?



日を追うごとに二人の仲は深まっていった。木兎から話し掛けることもあれば、みょうじから笑い掛けることもある。並んでアイスを頬張ったり、梟谷のテーブルでご飯に呼ばれる夜も少なくない。初めは緊張するものの、愛想のいいみょうじは結局どこへでも馴染んでいける。音駒の面々は特に心配することもなく、夜久に至っては娘を送り出す親のような気持ち(黒尾に至っては人の恋路を楽しむ心地)で見守っていた。

そんな、例年よりも穏やか且つ豊かに感じられる日々の真ん中。クールダウン代わりのストレッチを終えた木兎は、腰を伸ばしながらぐるりと館内を見回した。いねえなあなんて残念に思ったところで、はたと気付く。


(今俺、なまえのこと探してた……?)


何の気無し。無意識の内。思い返せば、今までもそうだった。彼女の傍が色付いて見えたあの日から、自身の瞳はいつも小さな姿を探している。

何で。どうして。いないことが当たり前だったのに。この合宿が終わったら、いなくなってしまうのに。

正規のマネージャーでない以上、代表決定戦に来ることは当然ない。会いに行かなければ顔を見ることさえ叶わない。そもそも夜久の誘いに彼女が頷いていなければ、存在すら知らなかったであろう女の子だ。後少し。たった数日で、木兎にとっての日常と呼べる日々の中からみょうじは本当にいなくなってしまう。


(……それは、やだな)


擦り切れそうな靴紐を眺めながら、ぼんやり考える。

出来ることなら一緒にいたい。期間限定の仲良しではなく、笑い合えて声が聞けて、その頭をいつだって撫でることが出来る距離にいたい。困っている時は助けてやりたい。夏の暑さが苦手だと言うなら、日陰を作ってやりたい。連絡先を聞けば繋ぎ止められるだろうか。連絡出来たとして、会えたとして、話せたとして。じゃあそれはこの先どこまで続くのか。例えば高校を卒業する時、なまえの隣には知らない誰かがいるかもしれない。


――ズキン


途端に痛んだ心臓に目を見張る。何かの病気かと一瞬焦り、けれど裏口の方から聞こえた声に顔を跳ね上げて理解した。なまえのせいだ。顔を見なくたって誰の声か分かるのも、いつも見ているはずの景色が色鮮やかに映えるのも、バレー以外の時間さえ待ち遠しくて仕方がないのも、この心がこんなにぎゅうっと締め付けられるのも痛むのも。

全部が全部、なまえのせいだ。



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