ぼくのしるきみのすべて



黒が混じる白銀の髪は存外すぐに見つかった。初めて話したあの日、並んで座った渡り廊下のコンクリート。そこに木兎は座っていた。哀愁と表すには、あまりに静かな背中だった。


「ぼっくん」


言葉の用意なんて勿論ない。それでも迷うより先に声帯が震えた。考えるより早く愛しさを唱えた指先が触れる、筋肉質な肩。皮膚を隔てるTシャツは乾いていて。


「ごめんな。かっこ悪ぃとこ見せて」


振り向かない横顔は一瞥さえ寄越さないまま「すぐ戻るから」と俯いた。いつものように笑っていられるだけの気力が、今の木兎にはなかった。

わざわざ自分を追ってきてくれたであろうこと。愛称を呼び、こうして隣にしゃがんで寄り添ってくれようとしていることは素直に嬉しいと思う。反面、傍にいればいるほど膨れ上がる靄が全身に広がって、それがまた痛くて、苦しくて。

なあこれ、俺じゃなくてもこうなの。例えば黒尾だったりやっくんでも、こうやって優しくすんの。

そんな子ども染みた思考回路が煩わしい。締め付けられてばかりの心臓では、スパイクを打つどころか最早呼吸さえままならない。さっきもそうだった。彼女の姿が脳裏に浮かんで、そしたらミスった。なまえのせいだと言えたら良かった。傷付けないように独占出来たなら良かった。最近ずっと後悔ばかり。この場を離れようとしないなまえに何か言ってやらなきゃいけない筈なのに、上手く舌が回らない。上手な伝え方も分からない。言い表せるだけの言葉を知らない。


どんどん燻っては肺を圧迫する嫌な煙を、しかし、凛とした声が横断した。


「かっこ悪くないよ」


自然と動いた視界の中、形のいい眉が下がる。目元をゆるめたみょうじが「全然かっこ悪くなかったよ」と優しく笑む。


「バレーボールって体育の授業くらいしかやったことないんだけど、ぼっくん見てると私も仲間に入れてって言いたくなる」
「……」
「コートの中で一番キラキラしてる」


ようやっとこちらを向いた安堵感。それでも拭えない心配を抱きながら、彼女は続けた。

不器用だと笑われたっていい。だって仕方ない。生まれて初めて好きになった男の子だ。言葉なんて選んでいられない。今伝えられる精いっぱいは今伝えておかなくちゃ、今日この瞬間はもう二度とこない。ねえぼっくん。


「私、好きだよ。ぼっくんがバレーしてるとこ」
「……好き?」
「うん。いつも応援してる」


だからやめちゃわないで。落ち込まないで。
調子が良くても悪くっても、あなたは世界一眩しくてかっこいいよ。



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