美しくほどける糸のすがた



真っ白なベッドに潜り込み、向かい合わせで手を握る。ひんやり心地いい右手。


「さあ、おやすみしよっか」
「……なまえは、朝までここにいるの?」
「もちろん。ここにいるよ」
「そっか」


また少しだけ話をした後、躊躇いがちに目を伏せた轟くんは夢を見るのだと言った。


「どんな夢?」
「お母さんが泣いてる夢……。よんだら、ふり向いて、それで…っ」
「大丈夫。思いださないで。今日は見ないから」
「ほんと…?」
「うん。だからほら、目をつむって。しょーとくん」


ぎゅっと手を握って、息を吸う。優しく、淡く。彼のために選んだ子守唄をそっと歌う。きっと誰より心優しい彼が安心して眠れるように。誰一人として、その眠りを邪魔しないように。

悲しい記憶も辛い思い出も、夢となって彼を脅かすものは全部私のご飯。個性を使って、時折顔を覗かせる悪い夢を食べながら、絶えず静かに歌う。目前の轟くんが深く眠った頃、ざらついた不幸の味に少しだけ泣いた。それくらい、あまりに悲しい夢だった。憔悴しきった母親の顔も、甲高いやかんの音も、浴びせられた熱湯も。思わず左目を覆ってしまうほどに、悲しい夢だった。



それから二週間弱。夕方から翌朝まで、毎日傍にいた。昼間は私の睡眠時間。病院の別室で眠り、目が覚めたらお風呂を済ませる。そうして轟くんの病室で何でもない話をしながらご飯を食べて、同じベッドで「おやすみ」を交わす。彼はそのまま眠りの中へ。私は子守唄を口ずさみながら、夜通し悪夢を食べた。

その甲斐あって左側の包帯がとれた頃、少しだけ笑うようになったその目元から、隈は消えていた。お仕事は無事達成。エンデヴァーから感謝が告げられ、役目が終わったことを知る。報酬は両親の元へ振り込まれていることだろう。

エンデヴァーに連れられながら何度も振り返る不安気な表情に「またね」と手を振る。夢を通して知り得た環境。そこから彼を救い出してあげたいけれど、私だって所詮ただの子ども。歌で人を眠らせ、夢を食べることしか出来ない。幸せを祈ることしか出来ない。


彼らを乗せた車が見えなくなって少し。迎えに来た両親の前で泣いてしまったのは苦い思い出だ。



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