「初めてじゃねえよな?」
「え……?」
一瞬、心を読まれたのかと思った。驚きに洩れた声が、彼の真っ直ぐな瞳へ吸い込まれる。あの頃よりも大人びたそれは、ひどく澄んで見えた。
胸の内をじんわり覆うあたたかさは、たぶん安堵。救えなかった轟くんが誰かによって、あるいは彼自身の力で、今ここにいる。こんなに綺麗な眼をしている。寂しげな様子はない。歪んじゃいない。そんなことが嬉しいと思う。嬉しいと思ってしまうことが、哀しいと思う。
言葉を選ぶように逸れた視線。「何が?」と助け舟を出せば、形のいい唇が動いた。
「みょうじと俺、前に会ったことあるような気がして。違ってたらわりい」
「……」
どう、答えるべきか。
私が肯定したとして、初めましてではなかったとして、じゃあ轟くんは、それを確かめてどうするのか。そもそも聞かなければ確定出来ないほど曖昧な記憶が、彼にとって"良かったもの"に分類されている保証なんてどこにもない。もしかしたら恨み言の一つや二つはあるかもしれない。だって、救えなかったのは私の方。
頭の中で模索する。
何度も振り返る幼い顔が、脳裏をちらつく。
でも結局、嘘は吐けそうになかった。人違いだと逃げたところで、また私の胸に似たような小骨が引っ掛かるだけ。清算した方が良い。あの時、縋るようだった眼差しに手を振ったこと。不安を拭ってあげられなかったこと。一緒に行けなかったこと。今の透明な轟くんがいることで、救えなかった私に罪はないのだと安堵したこの醜さも。言われなければ卒業まで初めましてのままだっただろう弱さも。たとえ許されなくたって、謝りたかった。
「あるよ。会ったこと」
「唄……歌ってくれたよな?」
「うん。まだ小さい時に、病院で」
色違いの双眼が瞬く。
「ごめんね。私全部分かってたのに、何もしてあげられなかった」
ごめん。ごめんね。焦凍くん。