行くぞと言われたところで、一緒のベッドに入ることを許可されているわけではなかった。ただ同じ空間で、同じ空気を吸って、同じ時間を過ごす権利を与えられているだけに過ぎない。彼のベッドは、彼だけのものだった。
理由を教えてくれたことはない。でもたぶん、うっかり五指が触れてしまうことを懸念しているのだろうと思う。それが合っているのか、はたまた間違っているのか。仮に合っていたとして、優しさなのかそうでないのか。その答えももちろん、彼だけが知っている。
「弔くんも飲む?」
さっきから刺さっている視線に振り向くと、枕に半分埋まったままのくぐもった声が「冷たいやつ」とだけ言った。我らがボスは、ちょっと生意気な猫みたいで可愛い。荼毘くんやトガちゃんがいない日はストレスが溜まらないせいか、こんな風に穏やかなことが多かった。
一口飲んだマグカップを置いてグラスを出す。少しだけ氷を入れて、インスタントのアイスコーヒーと牛乳を五分五分で注いでから、くるくるかき混ぜる。幾度となく黒霧さんに代わって作った彼好みのカフェオレは、もう覚えていた。
「私も座っていい?」
「ああ。上がってくるなよ」
「うん」
ベッドの端に腰かけ、起き上がった彼の手へグラスを渡す。中指は引っ込められていた。
まるでとても大切な物のように、そっと枕元へ置かれた"お父さん"をぼんやり眺めながら喉を潤す。どうしてそんな呼び方をしているのか。あの涙の理由には、この手も含まれているのか。
出来ることなら、拭ってやりたいと思う。不安や悲しみ、寂しさ、痛み。弔くんに付き纏っているのはきっとそんなものばかりだろうから、例え半分でも持ってあげることが出来たら、少しは穏やかに眠れるんじゃないかって。泣かなくて済むんじゃないかって。
まあ残念ながら、今はまだ私の完全な一方通行であり独りよがりに過ぎないんだけど。それでもせめて、敵だとか世界だとか関係なく、弔くんの為だけにここへ身を置いている人間がいるんだってことを伝えたかった。どうしようもなく、知っていて欲しかった。