骨の髄まで融かして仕舞おう



たとえ擬似でも、心なんてなくても、愛されている間は心地が良かった。寂しさも虚しさも忘れ、ただ広い背中に縋るだけで容易く与えられる温もりは、何もかもを無条件に許してくれる。シャワーを浴びてスッキリした後でも、それは変わらない。


髪を拭きながら、彼の元へ歩み寄る。

少し窮屈なセミダブルのベッド。緩やかな呼吸。閉じられている瞼。爛れた皮膚が異様さを醸し出しているだけの整った顔立ち。「寝ちゃった?」と話しかければ、ゆっくり開いた双眼がこちらを見上げた。浮かんだ想いを胸にしまい、そっとキスを落とす。


「……積極的だな」
「そんな気分なの」


微笑んでみせれば、彼も口端で笑った。

湿った髪を撫でていった手が項へそえられ、鼻先が触れ合う。至近距離で交わった視線も、窺うように唇をひと舐めしてから差し込まれた舌も、つ、と腰をなぞる優しい指先も、全部が心地良くて、愛しくて。

いっそこのまま、ひとつになれたら。
いっそこのまま、融けてしまえたら。
いっそこのまま、いっそ――……。





「……なまえ」
「ん……?」


呼ばれた名前に、微睡みの中から意識を起こす。彼の腕に包まれて、互いの温度を分け合う安らかなひと時。荼毘の体は少しだけ冷たい。


「悪ぃ。眠いな」
「ん……大丈夫。どうしたの……?」
「いや。大した話じゃねえからいい」
「ねえ、荼毘」
「ん?」
「聞きたいなぁ……あなたのはなし」


ふわふわとした思考を繋ぎ止めながら、目前で小さく揺れた瞳を見つめる。何も知らないはずなのに、どうしてだろうね。あなたの様子がなんとなく違うってことくらい、分かるんだよ。


「もっと甘えてよ」


彼がいつもそうしてくれるように、手触りの良い髪を撫でる。今にも崩れてしまいそうな皮膚を出来る限り優しくなぞって、好きと言えない代わりに「荼毘」と呼ぶ。

一瞬、見開かれた瞳。まるで泣き出しそうに、初めてくしゃりと顔を歪めた彼は、彼の頬へ当てている私の手に手を重ね「その言葉だけで十分だ」と、声を震わせた。



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