「は?」
「爆豪くんは私のどこを好きになったのかな……って」
ホットミルクを飲みながら、言葉を紡ぐ。こんなにゆったりと話せる機会は、たぶんそんなにない。爆豪くんには悪いけれど、アラームが鳴るまで眠れていたのなら、少しくらい話に付き合ってもらったって罰は当たらないだろう。
ヤオモモちゃんみたいに美人じゃない。
お茶子みたいに可愛くもない。
三奈ちゃんみたいな明るさもない。
黙りな彼に、挙げだせばキリがない自分の嫌なところを一つ一つ伝えていく。爆豪くんに相応しくもなければ、好きになってもらえるような女でもないってことは、自分でよくわかっていた。興味の発端は予想出来ている。個性が似ているから。でもそれ以外は、どうしたって思いつかない。
嫌われたいわけじゃない。好きでいて欲しい。なのに、その為の自信が見当たらない。だから、告白されても報告一つしてくれないことに、苦しさが生まれる。いつか私から離れていってしまうんじゃないかって、心のどこかで懸念している。単なるヤキモチじゃなくて、確かな不安。
爆豪くんは「んなクソみてえなことで悩んでたんか」と、心底呆れたように、二度目の溜息をこぼした。私にとってはクソみてえなことじゃないんだよ、とは言わないでおく。せっかく落ち着いている神経を逆撫でしたくはなかった。
「そんだけか」
「ん?」
「眠れねえ理由」
「んー……他にもあるかもしれないけど、どうして?」
「どうしてもクソもあるか。原因取り除かねえと何も変わんねえだろ」
「優しいね」
「ハッ、今更かよ」
俺はいつだって優しいだろがって台詞に笑みが浮かぶ。そうだね。今日を含めたこの四日間、いつだって爆豪くんは優しかった。
三角に曲げた膝へマグカップを置いて、自由な片手で彼の手に触れる。嫌がらないことを確認しながら、おそるおそる指を絡めれば、ぎゅっと握り返してくれた。
たったこれだけのことでこの心を易々と安心させてしまうなんて、まるで魔法みたい。こうも甘やかされてばかりでは、縋ることを覚えてしまいそうで少しこわいような気がする。でも今は、ふわふわしたあたたかさに丸ごと全部包まれているような、ひどく穏やかな心地だった。
「告白、さ。こないだされてたじゃない?」
「ああ、ンなことあったな」
「ああいうの、ちょっと不安っていうか」
「あ"?まさかてめえ、俺が浮気するとでも思っとんのか」
「思ってないよ。思ってないけど、でも、自信がないの」
ごつごつした指の節をなぞりながら、目を伏せる。
「私より素敵な女の子なんて、たくさんいるでしょ」
自然と沈んだ声。それすらもちゃんと拾ってくれたらしい爆豪くんが動く。遊んでいた指先を掴まれ、赤い瞳が視界に入り込んできたかと思えば、押し付けるようなキスをされた。膝に置いていたマグカップは、テーブルの上。
驚く私をよそに息を吐いた彼は「理由なんざねえわクソが」と言った。
「気付いたらてめえばっか目に付くようになってやがった。クソ髪だろうとアホ面だろうと、傍にいる奴はぶっ飛ばしたくなっちまう。てめえが俺のモンになりゃ、ちったぁそんなんもマシになんじゃねえかって思った。そんだけだ。てめえがブスでカスでめんどくせえことなんざ、端から知っとるわクソなまえ」
ノンストップで注がれた言葉が溢れる。予想だにしなかったそれらに、開いた口は塞がらないし全然頭もついていかない。
嫌なところを全部知った上で、気付いたら嫉妬心さえ芽生えていたって。告白したことに理由なんかないって。そういうことでいいんだろうか。どう頑張ったって随分ロマンチックな言い方しか思い付けないのだけれど、じゃあ、爆豪くんが私を好きになったのは。
「運命、ってことでいいの?」
「……どうとでも好きにとれや。てめえが寝れるようになんなら何でもいーわ」
呆れまじりの返答は、確かな肯定として胸を鳴らした。不器用なキスを含めあまりに現実味のない事態に、脳が動くことを拒む。
顔色さえうかがう余裕のない中、ぐるぐる廻っていた"運命"って二文字がようやくストンと落ち着いたのは、逃がしていたマグカップを私の手へ握らせた爆豪くんが、元の位置へと戻ってからだった。