君と添い遂げる1000日目



たとえば、って考える。傍にいればいるほど膨れていくこの気持ちを伝えなかったとして、このままの関係でいられる保証はどこにもない。雄英で可愛い女の子に猛アタックされて、ころっと落ちる可能性だってゼロではない。仮に今は大丈夫だとしても、近い将来プロになって精神的にも大人になった勝己を世のお嬢さん方は放っておかないだろう。

いろんな選択肢がある中で、何をどう選んでどう転ぶかなんて、きっと神様にもわからないこと。あとどれくらいこうしていられるかを案ずるより、これからも一緒にいられるように踏み出すことの大切さへと、均衡を保っていた天秤が傾いていく。






「……なまえ」
「はあい」
「膝、貸せ」


言うが早いか。返事も聞かないまま、勝己は私の太腿へとずり落ちた。やはり肩では寝にくかったらしい。眠そうなルビーが瞼に覆われ少し身じろいだ後、眉間のシワが薄れていく。全く、私はクッションじゃないんだけどなあ。心の中ではそうぼやきながらも、頬はどんどん緩んでいくのだから恥ずかしい。こんな顔は見せられたものではない。勝己が寝ている時で良かったと、幼い寝顔を見下ろしながら安堵する。そうして肩からずり落ちたカーディガンを整えた。

家に帰ってしまうまで、後一時間くらいだろうか。その間に、しっかり心を決めておかないと。

柔らかな髪に指を通しながら、また考える。今日は朝から頭を働かせてばかりで、そろそろ知恵熱でも出そうな具合だ。思えば人付き合いで悩むことなど、あまり経験してこなかった。彼以外とはそれだけ浅い関係で過ごしてきたし、切れて困る縁もなかった。恋って難しい。けれど戸惑いを振り切ることは、もう難しくなかった。


いろんな可能性とタイミングをぐるぐる照らし合わせる。今か、自然と起きた後か、帰り際か。なんだかどれもしっくりこない。まあ、玉砕してすぐにバイバイよりかは何十分かだけでも傍にいる方が、これからも友達ってスタンスは崩さずにいられるかな。なんにせよ伝えないことには現状維持もできないし、始まらない。

勝己、と呼ぶ。私の人生の中で、たぶん親の次くらいによく呼ぶ名前。微動だにしない頬をつつけば瞼が小さく震えて、昔から変わらない綺麗なルビーが私を捉える。



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