鮭のマヨホイル焼きに、きゅうりの香味和えともやしの味噌スープ。献立を聞いた時は味が濃そうな響きにげんなりしたけれど、さすがは宿儺シェフ。まろやかほくほくな美味しさに舌が唸る。最早私の語彙力が『美味しい』しかないことに憤りを感じるくらい美味しい。こんなの初めて食べる。唯一解せないのは、最大限の敬意を込めた「天才だね」って褒め言葉を鼻で笑いやがったこと。
「ご馳走様でした」
手を合わせてお水をひと口。相変わらず程良い量感だった。カラの茶碗には米粒ひとつ残っていない。完食すると、九割九部キャパオーバーでダメになるこの非力な消化器官事情を、大変良くご存知でいらっしゃる。トイレと小一時間お友達にならなくて済むのは本当に有難い。残念ながらプリンを作ってくれる気配は未だ微塵もないけれど、まあ目を瞑ろう。贅沢は言うまい。
ところで、さっきから微動だにしない視線の圧は一体何を意味しているのかなあ。
不思議に思いながら振り向けば、静かな瞳とかち合った。綺麗な赤色が熟れたトマトみたい。机に頬杖をついたままじいっと見つめられ、なんだかとっても落ち着かない。
仕方なく首を傾げ、用件を促す。
鼓膜に泥む、ざらついた低声。
「多少は増えたのか?」
「何が?体重?」
「他に何がある」
呆れ混じりの溜息。次いで、ずい、と寄ってきた彼の背が屈められる。
「どれ」
そう伸ばされた片手は、あろうことか一切の躊躇なく私のお腹へ触れた。
「っ、」
「食ったばかりでこれか」
ひくり。思わず引き攣った肌など歯牙にも掛けない無骨な熱が、Tシャツ越しにゆるゆる動く。厚みを確かめるようくびれを掴み、丸い腰骨を撫でる指。脇のラインをなぞり上げたそれが、浮いた肋を一本一本擦っていく。
痛くはない。昨日頭を撫でられた時と同じ、呪いの王らしからぬ柔い力。むしろ幾分丁重に思える触れ方は、質の良い調度品を吟味するよう。
「す、すくな……?」
「……」
胸の底。恐怖などまるで感じさせない眼差しが、ただただ羞恥を掻き立てる。
いくら呪い(それも御歳千はゆうに超えているだろうお爺ちゃん)であろうと、見た目は超絶厳つめ虎杖くん。いや別に虎杖くんだからというわけではなく、本来の姿を知らないが故に、すっかり現イメージで固まってしまっている同年代の宿儺だからこそ恥ずかしい。いっそもっと粗雑に扱ってくれたなら、まだ平然と居られたところ。ねえ、何でこんな――……やばい、熱い。
「ちょ、待って」
「……」
「っ、ね、待ってって」
「……」
「すく、っ……」
ああ、ダメだ。依然として這う手のひらが、肋を伝って背骨をなぶる。ちっとも止まってくれやしない。気付かぬ内に迫っていた厚い胸板は、押したところでびくともせず。ただ触られるがまま、ぞわぞわ粟立つ肩甲骨を反らした刹那、降ってきた声に息を呑む。
「どうした。もう啼くのは仕舞いか?なまえ」
持ち上げた視界の中央、さも可笑しげに弧を描いた四つ目がケヒッと嗤った。