「寝ておらんのか」
「そうでもないよ。昼寝もしてるし」
「飯は?」
「食べてる」
「昼だけか」
「夜も食べてるよ」
「はー……その見たなりで良く言えたものだな」
お腹を触られたあの日と同じ。呆れ混じりの溜息が、細く重くたなびいた。「痩せただろう」と図星を突かれ、返す言葉もなく黙る。
別に、宿儺のご飯で増えた分が落ちただけ。痩せた、というよりは元に戻った、といった方が正しい。けれど確かに、最後に会った時よりかは減っている。野薔薇でさえも気付かなかった数キログラム。私にとっては大きいけれど、皆にとっては誤差程度。そんな些細な違いが、どうしてひと目で分かるのか。飽きもせず、怒りもせず、取って食う気もさらさら見せず。どうしてこんなに構うのか。もう、来てくれないと思ってたのに。
「まあ良い。なまえ」
小娘、ではなくちゃんと呼ばれた自身の名前に瞠目し、テーブル上を滑るように差し出されたビニール袋へ重ねて驚く。思わず宿儺を見遣れば、あけてみろと言わんばかりに顎で示された。おそるおそる中身を覗く。手のひらサイズの保冷剤。それからプラスチックのカップ容器がいち、に、みっつ。柔らかそうなクリーム色に、底数ミリの濃い茶色。ねえ、嘘でしょう。私がなんとなく言ったプリン、まさか覚えてくれてたなんて。
「これ、作ってくれたの?」
「ああ。今日は飯まで気が向かん。それで我慢していろ」
「……三つあるけど、全部私に?」
「なんだ。不服か?」
「そんな、こと……」
あるわけない。
そう続くはずだった六文字は、けれど喉奥でつっかえて、代わりに頬を伝っていった。
「……なぜ泣く。つくづく分からん奴だな」
今度は短く深い溜息。訝しげな視線が刺さり、無骨な指が伸びてくる。生ぬるく残る涙痕を背でなぞり、目頭から目尻にかけてやわく拭う。宿儺の温度か、それとも器である虎杖くんの体温なのか分からない。分からないけど、触れているのは確かに宿儺で、宿儺の意思で―――ねえ、困る。困るよ。こんな優しくされてしまって、茹だる鼓動が痛くてうるさい。もう落胆なんてしたくないのに、心の大半を期待が巣食う。
いっそ認めて、直接ぶつけてしまえば楽になるだろうか。好きだって。甲斐甲斐しく世話を焼き、他とは違う手付きで接し、女の子みたいに扱って。ろくでもない突き放し方をしたはずなのに、いつだか伝えた些細なデザートを持って来るから。だから好きになっちゃった。今まで通りが思い出せもしないほど。嬉しくて、悲しくて、愛しくて、苦しくて。溢れるいろんな感情に追い付けなくて、後から後から、涙がこぼれ落ちるほど――……。