歩幅を合わせてやりながら、普通科の寮前までなまえを送る。
「ありがと」
そう、するりと離れていった手を咄嗟に掴んでしまったのはどうしてか。感覚的に答えを探すならば、教室で手首を掴んだあの衝動に良く似ていた。
近頃、震えることが増えた瞼が瞬く。ほんの少し上下に開いて、応えるように握り返された手。いっそ振り払えやって思う反面、そんな些細なことが膨れた熱を落ち着かせていく。こいつに触れているのも、こいつの目に映っているのも、今は俺一人。鼻で笑ってしまいそうな実感に、しかし心のどこかで満足している。
ああ、苛々する。
「寂しくなった?」
淡々とした無色透明な声。平然と澄ました顔。いつもと同じ。俺だけが乱されて、俺だけがわけの分からない心情に動揺して、俺だけが苛々して。
「?ねえ」
いつもいつも、納得いかねえんだよクソ。
てめえもちったぁどうにかなれや。
「かつ―――」
繋いだままの手を、ぐ、と引き上げた。同時に身を屈め、さっきよりも更に見開かれた鮮明な瞳が至近距離の俺を捉える。色濃く焼き付く赤。なまえの淡い赤に、俺の真紅が重なる。
以前確かに触れたカサついた薄い皮膚の感触。そのまま再度押し当てて、嫌ってほど耳につくようなリップ音を残してやる。
「じゃあ、日曜な」
奪った唇も、掴んだ手も、今度は俺から離した。
「……うん、また、日曜日」
遅れて呟くように返事をした声は呆気にとられたのか驚いたのか、珍しく若干の掠れを伴って届いた。少なくとも多少の変化が感じられたことに、胸中を占めていた靄が引っ込む。変な熱も同様になりを潜め、幾分かスッキリした心地で背を向けた。
抵抗も抗議もなく、瞬きすらしないまま。普段からそうであるように受け入れたなまえがどう思ったかなど知らないし、感情の起伏に至っては人形のようなあの女が、今更こんなことでどうにかなるとも考えにくい。ただ、それでも良かった。俺がなまえの赤をどうしたって消せやしないように、なまえも俺を忘れられなくなればいいと思った。
三回目の××
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