ピピピピ、ピピピピ――…パシッ。

うるさい目覚ましを止めて数分。気怠い体を起こしつつ欠伸をこぼす。いつもと変わらない起床時間。確認したスマホに通知はなく、再度欠伸をしながら洗顔と歯磨きにと部屋を出た。


今日は“あけておけ”と言われた日曜なわけだが、あのクソからは未だ何の音沙汰もない。時間はもちろん、こっちに来るのか行けばいいのか、それともどっかで待ち合わせるつもりなのか。

さっきから無意識に画面へ向かう視線に舌を打つ。いっそ俺から電話してやろうかとも考えたが、そもそも連絡先すら知らないことに気付いてやめた。『また日曜日』って言葉通り、あれからあいつの姿は見ていなかった。


部屋に戻って、着替えを済ませる。

さてどうするか。情勢把握に読み始めたニュースは既に一周してしまった。出掛けるわけにもいかない。退屈片手に室内を見回せば、暫く使っていない掃除機が目に留まった。もちろん散らかってはいないが、まあ暇潰しにはなるか。







丁度部屋が綺麗になった昼前。

控えめなノック音に扉を開ければ、やけに女らしいワンピース姿のなまえが居て、一瞬どきりとした。数日会っていないだけで随分久しぶりに思える瞳が俺を見上げる。


「お待たせ」
「別に待ってねえわ」


非常識な時間に来やがったらぶっ殺していたところだが、まあ悪くないタイミングだ。連絡くらい寄越せとか、会うなら会うできっちりいろいろ決めとけとか、そんで今日はどうすんだとか。言いたいことは山ほど湧いたが、とりあえず中へ入れてやる。所在なさげに躊躇ったなまえは、俺がクッションを示すと大人しく座った。


「ほんとに予定あけてくれてたんだね」
「あ?てめえが言ったんだろが」
「無視されるかと思った。時間とか言ってなかったし」
「それ意図的だったんかコラ」
「……留守だったら、聞かないつもりだった」
「相変わらずキャッチボールの出来ねえ女だな」
「何でそんな優しいの」
「はあ?」


また斜めにぶっ飛んだ脈略のない話に、冷蔵庫を開けた手が止まる。


「別に優しくしてるつもりなんざねえわ」
「でも私だけでしょ?」
「何が」


三角に折った膝を抱えたなまえは俯きがちに床を見ていて、相変わらず真意は微塵も読めそうにない。それでも淡々としたいつもの声は、以前と比べて少しずつ抑揚が増えてきたように感じられる。否、声だけじゃない。今までロボットか人形同然だった行動も態度も、おそらく俺しか気付かないような速度で変わってきている。だから返事を聞いて、すぐに分かった。


「キス、するの」


ああ気にしてたんか、って。

嬉しさか安堵か、はたまた優越か満足か。胸の内からふつふつ湧き上がるこれを示す言葉は上手く見付からないが、まあ悪くはない。こうして聞いてくるということは、少なくとも寮まで送ってやったあの日から今日までずっと引っ掛かっていたってことで、つまりその間、なまえの中には絶えず俺が居たってことだ。


てめえだけだっつったら喜ぶのか。
てめえだけじゃねえっつったら悲しむのか。


ついこの間聞いた、切島の台詞が思い出される。

―――みょうじは恋してそうだよな



彼と彼女の思惑




index