名前を呼んで、冷えたりんごの缶ジュースを投げる。顔を上げたなまえは特に動じる様子もなく受け取り「ありがと」と、呟くように言った。表情は変わらなかった。
「てめえはどうなんだよ」
「何が?」
「誰にでもさせんのか」
「キス?」
カシュッとサイダーのプルタブをあける。肯定代わりに視線を投げれば、ふるふる首を横に振って珍しく俯いた。
マスカラでも塗っているのか。ただでさえ長い睫毛が、普段より白い肌に映えて見える。時折キラリと光る瞼。良く見ればいつも血の気のない唇も頬も薄ら桜色に染まっており、そこそこきっちり化粧をしていることが窺えた。途端、再度思い出された切島の台詞が、脳内をぐるり。
「てめえ、俺が好きなんか」
巡った疑問は、自分でも驚くほどすんなり口からこぼれた。
僅かに瞠目した目が、ほんの一瞬だけ戸惑いを宿す。それでも「そう、なのかな」と紡ぐ声は無機質で、相変わらず腹の中は汲み取れやしない。照れるとか恥ずかしがるとか、今まで俺に告白してきたモブ女みたいな反応は見受けられない。
何を考えているのか。近付いてきた理由はあるのか。俺をどう思っているのか。感情の起伏が殆どゼロに等しいのはどうしてか。今まで時折気に掛かった全てが、振り払う間もなく思考を埋めていく。
もう昼だ。いい加減、腹が減ってきた。けど一度口にしちまったらもう“蓋をしてまた後で”なんざ無理な話だった。
「言えや。腹ん中全部」
「お腹はすいてる」
「そうじゃねえアホ」
閉めた冷蔵庫に寄り掛かり「こっち向けや」と呼んだ視線を捕らえる。この俺が真面目に取り合ってやろうっつっとんだ。はぐらかしやがったら、今度こそ殺す。
「俺だって腹減ってんだ。さっさと終わらせて飯行くぞ」
「先にご飯行ったら良いんじゃない?」
「うるせえ。こんな状態で落ち着いて食ってられっかカス」
「?」
「だから、気になんだよ。クソどうでもいいてめえが」
ビビりもしねえで話しかけてきやがって、何一つ読めねえ澄ました顔で随分近くに寄ってきたかと思えば上手い具合に擦り抜けていく。死ぬほど腹が立って苛々して、けど冷静になって見てみりゃ、こいつの周りには誰も居なくて、こいつがわざわざ構ってんのは俺だけで。
なあ。雄英に入れるだけの頭あんだろ。しっかり考えてしっかり答えろや。
「寄ってくんなとかそういうことを言ってんじゃねえ。何で俺なんだ」
平行線は辿らない
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