食堂で喋ってから三日。
どこから嗅ぎ付けやがったのか、性懲りもなくA組に顔を出したなまえは「かっちゃん」と、その凛とした声で喧騒を裂いた。モブ共の視線が瞬時に扉へ向かい、漏れたのは舌打ち。なまえに対する来んなって苛立ちと、その他に対する見てんじゃねえって苛立ちが混ざって気持ち悪い。何故こんなに苛立つのか。分からないからこそ余計に胸くそが悪い。


他に興味はないとでも言うように、一身に浴びているだろう視線を気にすることなく寄ってきたなまえは、俺の隣でしゃがんだ。
机に手をそえ目元だけを覗かせる様は、まあ可愛くないこともない。元々顔のパーツは整っている。ただ、陽の光をどこまでも透かす赤いそれだけは、どうにも目障りで仕方なかった。

連れはいないらしく、そう言えば知り合った当初から一人が好きな女だったとぼんやり思い出す。


「かっちゃん」
「ンだてめくそ」
「今日一緒にご飯食べない?」
「食わねえ。帰れカス」
「かっちゃんお弁当?」
「だから食わねえっつってんだろ。耳ついとんかコラ」
「私お弁当ないから、食堂の入口で待ってるね。すぐ見つけられるでしょ?」
「てめえ人の話、」
「じゃあ後でね」
「っ、聞けやクソなまえ!」


怒鳴ったところで、クソデクみたいにビビって止まるタマじゃない。ひらりとスカートを翻し、振り向くことなく駆けていく背中。

どんだけ図太い神経しとんだ。
スカート短えんだよクソが。



なまえの姿が完全に消えた頃、教室中からあがった「おい彼女か!?」「お前いつの間に……!」と囃し立てる雑音が神経を逆撫でる。

この間もアホ二人に言ったが断じてそんな仲ではないし、関係性を事細かに教えてやる義理もない。家族、恋人、友達、顔見知り、他人。そもそも俺の中にいるなまえの立ち位置は、どれもしっくり来なかった。名前しか知らない薄っぺらい関係だというのに、言い表す言葉が見付からない。それすらもまた、うざってえと思う。



怒りのままに机をぶっ叩いてモブ共を黙らせたところで、休憩終了を告げるチャイムが鳴った。



名前のない関係




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