苛々する。勝手に言いたいことだけ言っていきやがったクソなまえも、そのクソと飯を食べようとしたアホ面も、アホ面に対して無意識下でキレかけた自分自身も、とにかく全部が苛々する。

別にあんなクソチビのことなど、どうだって良いはずだった。どこで誰と何をしていようが知ったことではない。家族でもなければ、友達でもない。なのに、いつだって一人だったあいつの隣に他の人間がいることを考えただけで虫唾が走る。自分でも理解に苦しむ暗鬱とした靄の中心には、いつもの赤い眼。淡く透き通る、心の底さえ探らせない硝子玉。綺麗なアーモンド型をした、がらんどう。







食堂の入口で、なまえは待っていた。『すぐ見付けられるでしょ?』なんて言葉通り、探すまでもなく目についた黒髪が揺れる。どこか遠くを眺めていたレッドダイヤが伏せり、ゆるり。こちらを向いた。

コンクリートの段差を跳ねおり、そのまま駆け寄ってくる華奢な体躯。まずい。そう感じた時には既に遅く、腕の中へ器用に飛び込んできた猫の子ほどの体重を受け止める。ちゃんと食ってんのかってくらい細い腰を支えながら、浮いているなまえの足を地面に着かせ「危ねえだろが」と舌打ちをすれば「来ないかと思った」なんて無視しやがった。


「来ねえつもりだったわ」
「なんで?」
「てめえと飯食う必要ねえだろ」
「私はかっちゃんと食べたい」
「俺は別に食いたかねえ。他にいねえんか。クラスの女共とか」
「さあ。誘ったことないから」


女ってのは何かにつけて群がる生き物だと思うが、やはりこいつは例外か。淡々と言ってのけたその手が、俺の手に触れる。氷のような低体温。ちょっと力を入れてやるだけで容易く折ってしまえそうな細い指。振り払おうか迷ったものの、結局面倒くさいと思考を放棄し、好きにさせた。せいぜい有難く思えやカス。



食堂に連れられ、美味そうな匂いに腹が減っていく中、昼飯を選ぶ。大体食べる物はローテーションで決まっていて、今日はカツ丼の日だ。


「かっちゃん何にするの?」
「関係ねえだろクソが」
「私オムライス食べたいんだけど、うどんも捨てがたいんだよね」
「チッ……そうかよ」
「でも二つも食べれないから、かっちゃんうどんでいい?」
「あ゙?ンでそうなんだ。俺は俺の食いてえモン頼」
「すいませーん、オムライス一つときつねうどん大盛りで」
「っ聞けやクソチビ!」
「え?あ、大盛りじゃなくても良かった?いっぱい食べるかなーって思ったんだけど……」
「量の問題じゃねえわ!何勝手に注文しとんだぶっ殺すぞ!!」
「かっちゃんの分の七味取っとくねー」
「っ〜〜……!!!」


こちとら怒りメーターが勢いよく振り切って血管が何本か切れそうだってのに、いそいそ七味をキーしやがるクソなまえを視界から外すことでなんとか落ち着く。こいつにキレるだけ時間と労力の無駄。ただ疲れるだけ。必死に言い聞かせながら、折る以前にうっかり燃やしちまいそうな手を振り払った。死ね。



君限定の自制心




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