おまけ
(作中での伏線や小ネタのご紹介)



『明日を上手に生きるには』

◆心の奥、瞼の裏側、遠い記憶。忘れてしまいたいような、大事にとっておきたいようなあの日の残影が、じわりと滲む。
家族としては忘れたい、けれど相澤との出会いだからこそ大事にとっておきたくもある事件が起きたあの日の記憶。

◆兄の顔を見る度、私の手足は鉛のように重くなる。お互い、包み隠さず素直に泣けたならどんなに良かったか。〜言葉が見付からないからこそ、せめて挨拶を交わす。
妹(夢主)に心配も罪悪感も抱くことなく今まで通りでいて欲しいが為にへらへら笑って明るく過ごし弱音を吐かない兄。対して妹(夢主)は我慢せず弱音を吐いて、罪悪感を沈下させる為にも責めて欲しいと思っている。「痛い・辛い」と兄が泣けば自分も「ごめんなさい」と泣くことが出来る。けれどそうしない兄の気持ちを分かっているからこそ何も言えない。悲しくも優しい兄妹関係。



『君のおかげか、君のせいか』

◆スーパーの袋を鳴らしながら、明日は雨かなあなんて、ぼんやり傘を被った満月を見上げた時、甲高い悲鳴が鼓膜を劈いた。
→傘を被った月に似たぼんやりまあるい外灯が、我が家の目印。(『明日を上手に生きるには』より)
連想描写。事件が衝撃的だったあまり何気ない月でさえ心に残っており、自宅の外灯に重ねる夢主。



『手も腕も消えないから大丈夫』

◆可笑しそうにくすくす笑う耳触りの良い声
→クラスメイトに呼ばれてくすくす上品に笑う仕草(『とある雨の吉日のこと』より)
共通描写。最初の描写を最後に引用し、最初から最後まで夢主は変わっていないことを暗示。

◆舌へ触れる、アルミ缶特有の微かな金臭さ。小学生が好みそうな、冷えたりんごの味。
→凪ぎゆく心音に耳を傾け、そっとアルミ缶に口をつける。舌の上に広がったのは、りんごの甘味。(『君のおかげか、君のせいか』より)
連想描写

◆醤油へ浸した刺身を咀嚼する。
→夕飯用のお醤油を買ってきてって母のお願い/お醤油はダメになった。(『君のおかげか、君のせいか』より)
連想描写

◆満開の桜と共に花開くのはいつだって、淡く鈍いこの痛みだけ――。
『とうとういびつにしかなれなかった』の卒業シーン連想。相澤への恋心を秘めたままの夢主。

◆「ねえ、相澤さん?」
→あくまで教師である相澤に対する自分の立ち位置を見誤らないため。わざと“先生”呼びを(『明日を上手に生きるには』より)
告白への前置きであり、先生と生徒の関係を保てないため「先生」ではなく「相澤さん」と呼んでいる。

◆形のいい眉をほんのり下げ、上気した頬を緩め
→薄い唇が小さく震え、形のいい眉がほんのり下がって、(『明日を上手に生きるには』より)
連想描写

◆何も知らない。何も覚えていない。何にも気付かない。
優等生以外の夢主を知らない。初めて顔を合わせた過去を覚えていない。恋心に気付かない。

◆いつも決まって窓際に座り、外を眺めていた。
→窓の外を眺める輪郭(『とある雨の吉日のこと』より)/彼女の特等席はあの、窓際の――。(『とうとういびつにしかなれなかった』より)
連想描写

◆巨大敵を容易く圧したとは到底思えない細腕を折ってしまわないよう(無論簡単に折れないことは分かっていたが)やんわり握る。
→背を掠める制止の声をひらりと躱し、(『明日を上手に生きるには』より)
声で呼び止めるだけだった過去と、腕を掴んで引き止めた現在の対比。

◆ろくな言葉も思い付かず、ただ湧き出る涙をはらはら落とすだけ。
→いっそ不思議なくらい、涙は出ないまま。(『君のおかげか、君のせいか』より)
負の感情をりんごジュースと共に呑み込んだが故に泣けなかった過去と、負の感情に相澤への恋心が追加され呑み込み切れずに泣いた現在を暗示。

◆花弁のように舞って映える透明が煌びやかな照明を反射し、まるで星が瞬くようにちかちか光る。
→日頃、屋内では柔らかさを誇示する亜麻色が陽射しを透かし、まるで星屑のようにちかちか輝いた。(『明日を上手に生きるには』より)
相澤から見た夢主の連想描写。過去は(感情とは無関係な部位である)髪が輝いている=表面的な夢主を見ている。現在は(過去決して見せなかった&感情の一部である)涙が光っている=内面的な夢主を捉えている。

◆綺麗だ、と思う。
→人が生まれながらにして美しい物を美しいと感じられる摂理同様、あまり感性が豊かでない相澤もまた“綺麗だ”と、目を奪われる。(『明日を上手に生きるには』より)
なんとなくの「綺麗だ」と、明確な意思を持った「綺麗だ」の対比。

◆寒気がするほど鋭い眼光も悪辣が滲む声色も持たない
→寒気がするほど鋭い眼光を備えた瞳/優等生とはかけ離れた悪辣の滲んだ声色。(『苦しみを問う生きもの』より)
連想描写

◆「落ち着いたか」「……落ち着くと思いますか?好きなんですよ私。……先生のこと」
→「落ち着いたか?」〜頷いてお礼を告げる。(『君のおかげか、君のせいか』より)
同音台詞使用。落ち着いていなくとも頷いた耐えるばかりの過去と、言い返すほど吹っ切れた現在の対比。

◆深く青い瞳。窓の外を眺める輪郭。静けさを纏う呼吸。陽に透ける瞼。風に揺蕩う亜麻色。誰の眼にも一等柔らかく映え、透明にさえ感じられる肌。上品な仕草。
→窓の外を眺める輪郭は、いつも静けさと共に息をしていた。陽に透ける瞼が〜。風に揺蕩う亜麻色のセミロングは誰の眼にも一等柔らかく映え、細く長い指や手も、透明にさえ感じられる肌も、クラスメートに呼ばれてくすくす上品に笑う仕草も(『とある雨の吉日のこと』より)
共通描写

◆少しでも不規則な呼吸が落ち着くための材料になればいい。心が凪ぐきっかけになれればいい。
→カポッと気の抜けた音。もしこれが炭酸だったなら、もうちょっと良い音が鳴ったのかなあ。凪いでく心音に耳を傾け、(『君のせいか、君のおかげか』より)
相澤は既に過去、りんごジュースというきっかけを夢主に与えている。

◆まだ頼ることが許されている内に『さあ泣け』と寄り添い、
→今にも溢れてしまいそうな涙を呑んで、さあ笑え。(『同タイトル内』より)
対比表現。気持ちを抑え込む癖が染み付いた夢主。

◆「悪かった」〜彼に罪があったとは決して思えないが、しかし彼自身が認め謝る今、それは確かにあったのかもしれない。
相澤が自責や反省をしてきた中、夢主は相澤が悪いと思ったことがなかったものの、相澤が言うならそうなのだろうと心内で認め謝罪に頷く(受け入れ許す)。本当の意味で許された相澤。

◆みるみるうちに頬を緩めていった名字が、華のように笑む。
→満開の桜と共に花開くのはいつだって、淡く鈍いこの痛みだけ――。(『同タイトル内』より)
痛みではなく笑顔が咲く。

◆ただありのままで愛されたかった五臓六腑を情愛豊かに拍動させた。
タイトル『薄脈』から連想した「五臓六腑」「拍動」を起用。拍動:内臓器官の周期的な収縮運動、特に心臓が律動的に収縮・弛緩し脈打つこと。薄れゆく脈拍と対比し、これからへの希望を暗示。






『咲かず実らず朽ちていく』

◇ 「いつの時代も偏屈な生徒はいるものよね」
ミッドナイトや当時の担任、教師陣から見れば、卒業後、独立独行で賞金狩りとも大差ない道へ進んだ相澤だって"偏屈な生徒"の一人だが、相澤本人にはその自覚がない。

◇「なにが名字さんにそう思わせたのかしらね」 相澤は彼女の朴訥とした問いに満足な答えを用意できなかった
決定打となったトロッコ問題の会話も相澤的には励ましの"つもり"だったので、相澤はまさか自分が最大の原因だとは思っていない。だから答えられなかった。



『とうとういびつにしかなれなかった』

◇"徒花"なんて汚名を囁かれている
→敢えて言い表すなら“高嶺の花”だと、相澤は思う。(『とある雨の吉日のこと』)
徒花(あだばな)、咲いても実がならない花のこと。ヒーロー科の成績が抜群に良い(花は咲いている)が、ヒーローにはならない(実はならない)という感じ。"高嶺の花"との対比。本当は「蕾のまま枯れていくこと」を表す単語が良かったのですが見つからなかったので苦肉の表現です。

◇ 時折座学で相澤が教壇に立つ機会はあっても「ちょっと良いか」なんて名字を連れ出す糸口
→ まるで“ちょっと良いか”なんて、それとなく連れ出すべきか迷っている相澤の思考を易々見透かしたような台詞(『逆さまに吊るした花の色』)
同音台詞使用

◇ 柔く吹き込む風は、まだ冬の名残を纏っていて少し肌寒い。そんな些細な温度は燻るわだかまりを刺激しないからこの季節は好きだった。
→ 瞬間、突如として吹き荒れた熱風 / 頬を撫でた、季節外れの生ぬるい風(『君のおかげか、君のせいか』)
容易に薄れるはずもない事件の記憶と、日常の何気ない切っ掛けで思い出してしまうほどに深い夢主の心の傷痕

◇ "意味もなく"とか"何気なく"なんて非合理的かつ無価値な枕詞だ。……今の自分にはそれがお似合いなのかも知れなかった。
相澤の合理主義からの引用と対比

◇ ああ、私も所詮はどうしようもない"凡人"なのだ
→(……本当に名字は天才だったのだろうか)(『咲かず実らず朽ちていく』)
自問自答する相澤が出した疑問に対する回答

◇ 優秀で完璧な、けれど無精卵だった金の卵に。
→ 有精卵(原作内) / 天才と呼ぶには拙く、凡庸というには輝きを持つ、可能性を秘めた卵たち(同タイトル内)
夢主と現1-Aの対比表現



『あの日の残光を見た』

◇ その姿、雷鳴のごとく。
白雲同様、相澤にとっての眩しい存在はいつでも"見上げるもの"であり、手の届かないと思わせる"天(気関連)のもの"である暗示

◇ 彼の免許証入れはやはりと言うべきか卒業記念品のカードケースで、色違いだなぁなんて名前の頬を緩ませた
→ ヒーロー科の卒業記念品は、卒業一か月前に取得したヒーロー免許のライセンスカードケースだと代々決まっていた。(『とうとういびつにしかなれなかった』)
色違いの伏線回収と、ヒーロー科卒業生は全員ヒーローになるものだ、という例外を考慮していない雄英への皮肉

◇ メニュー表にシードルの文字を見つけて密かに喜ぶ。りんごは私にとって特別だった。
→ りんごの甘味。いっそ不思議なくらい、涙は出ないまま。(『君のおかげか、君のせいか』)
「さよなら」しても相澤への憧れと恋心は捨て切れていない夢主

◇ まろい声が、あの忘れがたい鋭利を内包する。
→ まろい声にかどわかされて相澤は教壇で立ち止まる/後ろに疑問符なんて付きやしない、優等生とはかけ離れた悪辣の滲んだ声色。相澤は瞬きをして名字を見た。寒気がするほど鋭い眼光を備えた瞳が、誤魔化しは許さないと言わんばかりに煌く。(『苦しみを問う生きもの』)
連想表現



『明滅する心臓』

◇ 名字がifを連ねていく
→ それからあの不味い缶コーヒーの味と、意味がないと分かっていて脳味噌を占拠したifも。(『同タイトル内』)
相澤との対比。夢主は現場に立ったとしたらのif、相澤はもしも自分が夢主ならのif

◇他者を愛し、共に生きることを信条として命を燃やす人間と言う生物が、ヒーローを目指す以上は受け入れざるを得ない、「愛する者ですら一つの命でしかない」という歪み。
→ 感覚のどこかが麻痺していないと続けられない仕事であるという現実(『咲かず実らず朽ちていく』) / 命を賭した毎日を過ごすためには"普通であること"を諦めなくてはいけない。多分、ヒーローという生き物は心根のどこかが既に麻痺してしまっているのだと思う(『とうとういびつにしかなれなかった』)
"感覚のどこか"、"心根のどこか"への言及

◇それを青いうちに悟って、自らの歩みを止めてしまった優しすぎる彼女に、今一度、太陽の方角を教えてやりたい。
→その歪みを容認できない優しすぎる人間は別の道を歩む方がいい。(『とうとういびつにしかなれなかった』)
連想表現。あとは夢主が作中でたびたび花として形容されているため、"太陽"の単語を意識。

◇もう曖昧な言い方はしない。聞き間違えることも背景を邪推することもないように、一言一句に力を込めて。
→“真っ直ぐ進め” そんな思いが込められた相澤なりの気遣い(『逆さまに吊るした花の色』)/優秀な卵に接してきたはず・名字の背中をヒーローとしての光差す方へ押してやろうと尽力した"つもり"だった(『咲かず実らず朽ちていく』)
上記の反省を込めて、率直な言葉にすることを意識した相澤。

◇薄脈、すなわち薄れゆく脈拍。
タイトル『薄脈』の回収。あなた(相澤)に握り込まれた私の心臓。そのせいで、こんなにも苦しいのに、どうしてか、その痛みさえ愛おしくて手放したくない。痺れすら訴える薄れゆく脈拍を、今はただ感じて。……そんな雰囲気です。