「洗濯?勝己上手だよね」


床から天井まで伸びるクリアな窓越し。雲ひとつない青々とした晴天のもと、射し込む陽気がぽかぽか暖かい。

日当たりって思ったより大事。部屋を探す時、勝己が希望条件として立地やセキュリティ以外に南向きのベランダを挙げた理由が今なら分かる。軽快なメロディがどこか遠くに聞こえる中、ラビットファーのさらふかカーペット(これは通販サイトで勝己のアカウントとクレジットカードを使って買った。私の目に狂いはなかったけれど『事前報告しろや』って怒られた。勝己の物は私の物なのにね。)に素肌を預け、うとうと微睡む気持ち良さったらない。遮光カーテンを閉め切るばかりの私ひとりじゃあ一生気付けなかっただろう至福の時。うん。天国。

薄皮一枚繋ぎとめていた意識が遥か彼方へ泳ぎだす。ぼんやり煙った白靄に包まれ、そのまま眠りの底へゆったり沈む――はずだった。「オラ退けクソ名前」なんて辛辣な声が、グリグリ背中を踏みなぶってこなければ。


「ん"ん"……わたし今めっちゃ気持ち良くおやすみするとこ……」
「知るかンなモン。退かねぇならこんまま潰す」
「やだ内臓出ちゃう」


さすがにそんなバイオレンスな死に方は勘弁願う候。私の最期は、せめてベッドの上希望だ。ふかふかお布団に包まれて死にたい。仕方ない。

こみ上がった欠伸をこぼし、重い瞼をちょっと開ける。更にもうちょっと頑張って視界を広げつつ右へ反転。うわ眩しい。反射的に閉じた瞼を再度持ち上げれば、洗濯カゴの底が映った。そういえばさっき、洗濯機が鳴っていたような気がする。回し終わったよって。あんまり覚えてないけど。


「それ干すの?」
「あ?やるか?」
「いややらないけど。なんで乾燥機使わないのかなって」
「テメェ……」
「??」
「……お日さまの匂いじゃなきゃやだっつって俺の服ぶん取った挙句、もっぺん全部洗濯させやがったクソめんどくせぇ女がいるからに決まっとんだろが」
「あー、あったねぇそんなこと」
「あったねぇ、じゃねーわ。ったく……ぶっ殺すぞ」


カゴがずれた先。見慣れた天井を背景にこちらを見下ろすルビーは、けれど全然”ぶっ殺す”って感じじゃない。猫ちゃんみたいにジットリ細まっていて、むしろ可愛く思う。まだお互い雄英生だった頃、勝己の担任が丁度こんな目をしていたっけな。


元気かなぁ相澤先生。関わる機会は少なかったけれど、面識はそこそこある。勝己絡みはもちろん、経営科として『ヒーローをプロデュースしてみよう!』って授業で大変お世話になった。ヒーロー科に在籍する生徒の中から選んだ一人を世に売り込む、いわゆる推しプロジェクトを組むわけだけれど(そしてもちろん一番気兼ねがなくて楽な勝己を選んだわけなんだけれど)、彼の戦闘面を全然見てないもんだから分からなくって、何度か聞きに行ったのだ。

今どうしてるかなぁ。もう同窓会以来会っていない。風の噂じゃ同棲してるってふんわり聞いたけど、イメージなんててんで湧かない。そもそもあの人、共同生活なんて出来るのかな。料理とか絶対作れないよね。お昼ご飯飲料ゼリーだったし。いや、基本食べない私が言えたことじゃないんだけど。

そういえばプレマイ先生も彼女さんと住んでるんだっけなぁ。こっちもびっくり想像つかない。お家でもラジオ並みのハイテンションなのか、英語の授業時みたいに静かなのか。気になる。二人ともどんな感じなんだろう。彼女超絶好きぴっぴだったりするのかな。暴言と粗雑な扱いこそ日常的であれど、やっぱり私ラブな勝己みたいに。


それこそ本気で木っ端微塵に爆破されそうな思考が口を突かないよう、ぽつぽつ浮かんだ思い出の数々を胸にしまう。そしたら心臓の真ん中あたりがむずむずして、嫌悪と呆れを隠しもしないその眉間のシワですら、どうしようもないくらい愛おしくって。


「んふ」
「急ににやけんなきめぇ」
「やー、好きだなぁって思って」
「あ?」
「お日さまとー」

それから勝己。


瞠目した彼はハッと笑った。「同列一位なんざいらねーわ」って洗濯カゴを小脇に抱え、私を跨いでベランダへ。陽だまりの中、タオルやTシャツをパンパン広げて干していく背中は、どこか嬉しそうだった。



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