10

日も暮れて、まだやりてえ! と騒ぐ木兎を宥めすかしながらの片付けが終わった頃。雨はすっかりやんでいた。

「みょうじさんが待ってますから、今日は帰りましょう」って赤葦の言葉に、ぱっと振り向いた大きな双眼。ついで「うわごめんななまえー!」と、眉を下げて駆け寄ってきたしょんぼり木兎に思わず吹き出す。


「私のこと忘れてたでしょ」
「マジごめん! つーか雨やんだな!」
「ね。良かった良かった」


ほんとでっかい園児みたい。ほら着替えておいでって、広い背中をぺすぺす叩く。赤葦と足して割ったら丁度いい具合かな。いや、足して三以上で割らないとダメかな。そんなことをぼんやり思考しながら靴を履く。木兎用のビニール傘は、部室に置いておきなさいって手渡した。これでもう、雨を理由に呼び出されることはないだろう。


体育館が閉まる。

部室棟の端っこ。画面の中でいくつか交わした、赤葦とのメール文を眺めつつ鍵を返しに行った部員達を待つ。けれど聞こえてきた足音は一つだけ。まだ校舎に残ってる人がいたのかな。

きっとバレー部ではないだろうとスルーする気満々でいれば「お待たせしてすみません」と、穏やかな声が降ってきた。いつの間にか、大勢の中でも聞き分けられるようになったそれは赤葦で。

慌てて携帯をポケットに入れ顔を上げれば、涼しげな目元がゆるり。細まった。


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