私だけだったらいいと思う。赤葦の優しさに直接触れて隣に立てる女の子が、私だけだったら。でもそのためには先ず、気持ちを伝えなきゃいけない。そうしなければ始まらない。けれど、そこで終わってしまう可能性もゼロではない。
膨れる期待。相反するのは、大きな不安感。
まさか私がこんな風になるだなんて、ちょっと可笑しい。うだうだ考えるのは性に合わず、今まで、友達の恋愛相談も軽く流してきた。嫌なら別れればいいし、好きなら告白すればいい。分からないことは聞けばいい。そう思っていた。何もかも臆病になってしまうほど、誰かを好きになったことなんて一度もなかった。
「……なんて返そうかな」
悩みながら目覚ましをかけ、携帯に線を挿す。画面右上についた充電マークを一瞥し、いつの間にか詰まっていた息を吐き出した。
スタンプだけじゃ味気ない。かと言って、次を匂わせていいものか。図々しくはないかな。それとも女の子らしく、素直に甘えた方がいいのかな。
画面を伏せて、目を閉じる。まるで私らしくない。悩むのも、不安になるのも、怖がるのも、迷うのも。それに、気に入られたいがために自分を偽るのはダメだ。そんな無粋な下心、きっと赤葦にはすぐ見破られてしまうだろう。
瞼を押し上げ、光るボタンを目でなぞる。
“ほんと有難う。明日も朝練、頑張ってね"
おやすみ、を付けて送れば、ものの数分で受信した。
“有難うございます。おやすみなさい”