03

どうしたんだろう。

私を一瞥した視線が、向かいのホームへ泳いでく。いつもゆったり構えている赤葦が、年相応に見えるのは新鮮だった。何か気になることでもあるのか。それなら別に、遠慮なんてしなくていいのになあ、と思う。


「何でも言ってくれていいよ」


どうせ電車はまだ来ない。
ホームの灯りが目を焼く中。どんより沈んだ空気を連れたスーツ姿がまばらに窺え、ずっと遠くにある空はすっかり夜の顔をしている。そんな味気ない視界に確かな彩りをそえる赤葦は、私にとって特別な存在だ。私も、もっと色んなことを話してみたい。


「聞きたいこと?」
「……はい」
「何でもどうぞ。あ、スリーサイズは秘密ね」


軽く冗談めかしてみせれば、今まで躊躇いを孕んでいた表情が、ふ、とほぐれた。そうなってくれればいいなあって思っていただけに、表しようのない嬉しさが胸の内に渦を巻く。

戻ってきた視線はいつもの落ち着いたそれ。緩やかに細まった眼差しも、涼しげな瞳もやっぱりずるい。


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