シャワーを浴びて、制服を干す。濡れた髪を拭きながら携帯片手にリビングへ行けば、ラップをかけた晩ご飯がテーブルの上に置かれていた。
“お帰り。あたためて食べなさいね"
ニコちゃんマーク付きの走り書きは、お母さんからのメッセージ。朝、私が家を出る頃に帰ってきて、下校する時間帯に仕事へ向かう。顔を合わせることは殆どない。その代わり、こうして毎日、ご飯とメモを置いていってくれる。
「いつもありがとう、っと」
端っこへ添え書きをして、逡巡する。
夜勤形態で忙しいお母さんとのコミュニケーションは、中学の頃からこの小さなメモに書き切れる分が主体だった。部活が楽しかったとか、木兎がどうとか、テストが悪かったとか。出来るだけ読む手間を取らせない、端的な近況報告が多い。書いたり書かなかったりまちまちだけれど、今日は嬉しいことがあったから書いておこう。
“好きな子と連絡先、交換したよ"
自然と緩む頬をそのままにペンを置く。電子レンジでご飯をあたため終えた時、携帯が光っていることに気付いた。