色々とあったわけだが、無事にタズナさんの家に辿り着くことができた。
 再不斬はあの追い忍の子によってやっつけられたし、こちらは誰一人死んでいない。依頼人のタズナさんだって精神的にかなり消耗したと思うが、傷一つなくぴんぴんしている。

 これにて護衛は終了!依頼もこなせたしあとは木の葉に帰るだけ!………とはならなかった。

「カカシ先生、大丈夫ですか?あとどれくらいで動けそうです?」
「一週間かそこらかなあ」

 タズナさんの自宅にて。

 娘のツナミさんに用意してもらった一室を借りて、カカシ先生は布団の上で倒れていた。
 再不斬との死闘と写輪眼の使用によって、チャクラ切れを起こした先生は動くことができない。一週間そこらで回復するとのことだが、つまりそれまで私達は木の葉の里に帰れないというわけだ。

 …………カカシ先生ーー!!確かに再不斬を相手にしてた時はとてつもなく頼りになったけど、どうして肝心な時にそうなっちゃうのー!!もう、帰ろうよ?何なら私、カカシ先生のことおぶるよ?変化の術で大男になったら余裕で持てるでしょ。私、頑張るから!!

 しかしタズナさんがいる手前、それを言ってしまえば任務終了後即解散だなんて薄情すぎると思われかねない。第七班の良い子達にもそんな風に思われたくないため、私はまたしても黙るしかなかった。

 まあ、再不斬を(お面の子が)やっつけた訳だから脅威なんて今のところないけど………。それにあの再不斬がやられたとなれば、ガトー側は用心して襲いかかってこないはずだ。多分。

「そうなんですね。あ、私、丸薬持ってますけど食べますか?多分チャクラ一気に回復しますよ」
「チャクラ増強の副作用って知ってる?大抵そういうのって副作用がとんでもないんだけど」

 それでも諦めきれなくて遠回しにドーピングを勧めるが却下されてしまった。
 チャクラ増強系の丸薬はカカシ先生の言う通り、大抵副作用がとんでもない。丸薬を食べた直後はチャクラも回復してぴんぴんするが、それが切れてしまえば熱病に罹ったかのように魘され何も出来なくなるのだ。

 ちなみにこの丸薬は秋道チョウジ君というアカデミーの元クラスメイトからもらった。食べるのが好きとのことで焼肉食べ放題券を譲ったら、めちゃくちゃ感謝されて丸薬と交換することになったのである。

「え、えへへ!そうでしたっけ?先生には無理してほしくないですし、それなら食べない方が良いですね!」

 誤魔化すように笑ってみせたがカカシ先生の目が痛い。

「先生思いの良い子じゃないですか。果報者ですね!」

 ツナミさんが私達の会話に朗らかそうにする。私とカカシ先生は何も言えなくなった。

「…………それよりホタル、お前、囮になろうとしただろ」

 先生がじとりと睨んでくる。
 確かに先生が水牢の術にかけられていた時、ナルト君達を逃がそうとして足止めを買って出た。それにナルト君が思い出したのか「そうだったってばよ!」と声を上げる。

「なあ、ホタル!あそこで一人残ろうってのは薄情すぎるってばよ!オレ達もいたのにさ!」
「ご、ごめん」

 あの時のことを思い出しては恥ずかしくなってしまう。自分でも無謀だったと思うし、結局ナルト君達が奮起して態勢を立て直したのだ。

「正直ホタルがあそこまで体を張るような奴だとは思わなかったが………。もう、するなよ」
「はい。次は気を付けます」
「返事は良いんだけどなあ」

 素直に頷くものの、何故か胡散臭そうな顔で見られる。何というか、ここまで担当上忍に信頼されていない部下ってどうなんだろう。

「あー…と、それからお前らに言っておかなきゃならないことがある」
「何でしょう?」
「おそらく再不斬は生きている」

 カカシ先生の言葉にぴしりと空気が凍る。

 再不斬が生きている?いや、でも先生、奴が死んでいたのを確認していたよね?

 しかしそこでふと思い当たる節があった。追い忍の少年が使っていた千本という武器。親戚のゲンマさんが常時口に咥えるほど殺傷力が低い武器(ゲンマさんのは咥え千本だが)を使って殺すのが不自然だった。

 サスケ君も同じことを思ったのか「まさか………」と呟く。

「そのまさかだ。自分よりもかなり重いはずの再不斬の死体をわざわざ持って帰った。おまけに殺傷能力の低い千本を使用したことから導き出せるあの少年の目的は、再不斬を【殺しに来た】ではなく【助けに来た】とも取れる」

 そんなカカシ先生の推測に待ったをかける。

「待ってください。もしかしたら後で死体から情報を引き出すため、最小限の傷しか付けないよう注意を払っていたのかもしれませんよ」
「………嬢ちゃんの言う通り、超考えすぎじゃないのか?それに追い忍は抜け忍を狩るもんじゃろ!」

 タズナさんの言葉にうんうんと頷く。

 しかしカカシ先生は再不斬が死んでいたとしても生きていたとしても念のために準備しなければならないと言った。

 そしてその準備として私達第七班に修行を課すらしい。

「一度仮死状態になった人間が元の体になるまでかなりの時間がかかる。その間に修行をするが………、といってもオレが回復するまでだけだ。お前らだけじゃ勝てない相手に違いないからな」

 ナルト君が武者震いをする。
 サクラちゃんが不安そうにする。
 サスケ君が鋭い目でカカシ先生を見据える。

 そんな中、表には出さないが私は先生の決断に納得できなかった。




 ◇




 その後、部屋にイナリという小さな男の子がやって来た。

『死にたくないなら早く帰った方が良いよ』

 ガトーからの刺客を退けるため意気揚々とするナルト君に、水を差すように言った言葉。けれどあの子の言う通りだと思った。

 再不斬を相手に出来るのはカカシ先生のみ。あの追い忍……いや、再不斬の仲間である少年でさえ私達が束になって敵う相手か分からない。いくら第七班が成長しているとはいえ勝てる見込みはほぼないのだ。

 それに、本来ならば第七班の任務はもう終わっているはず。

 タズナさんを自宅に送り届けるまでが私達の任務であった。カカシ先生が動けない今、一室貸してもらっているが波の国にある旅館や民宿を借りてそこを根城にすれば良い。
 ガトー達の標的はあくまでタズナさんであるため、私達は狙われないだろう。そして折を見てカカシ先生のチャクラが回復次第、木の葉の里に帰還するのだ。

『元はと言えばワシのまいたタネ。この期に及んで超命が惜しいなどと言わんぞ。……… ───すまなかったな、お前ら。思う存分闘ってくれ』

 再不斬と対峙した時に言い放った、命をかける覚悟を決めたタズナさんの言葉を思い出してしまう。

 タズナさんにこれ以上、情を移す前に出て行った方が良い。彼を見捨てるという非情な方法が頭に浮かんでは胸が苦しくなる。

 ───そしてそれを理解しているはずなのに、再不斬を迎え撃つと宣言したカカシ先生の意図を汲み取ることができなかった。



 その日の夜。皆が寝静まった深夜に目を覚まし、私はカカシ先生のいる部屋に向かった。
 おそらく足音で目を覚ましているだろう。

 部屋の扉にノックをすれば、案の定すでに起きていたのか扉ががらりと開いた。松葉杖をもったカカシ先生が立っており、私の顔を見て「やっぱり来たか」と苦笑する。

「夜分遅くにすみません。でも、やっぱりっていうことは私の言いたいことが分かるんですね?」
「まあね。絶対ホタルは文句を言いに来ると思ったよ」

 文句とは何だ。文句とは。

 そして、とりあえず外で話そうと言うことになり、私は松葉杖をつくカカシ先生の後について行った。





 ◇





 タズナさんの自宅は海に面している。
 カカシ先生に連れられて庭に置かれた丸太のベンチに座ると、目の前に真っ黒な夜の海が広がっており辺りはしんと静まりかえっていた。

「…………こんな遅い時間に来てしまってすみません。だけどみんながいるところでは話しづらいと思って」

 まずこんな深夜に教師の泊まる部屋に訪れるという非常識な真似を行なったことに詫びを入れた。前世の基準であれば、子供とはいえ女が男性教師の部屋に一人で行くのは褒められたものではない。
 きっとカカシ先生もそういったことに配慮してくれたのか、部屋に招かず開かれた空間である外に連れ出してくれたのだろう。

「大方ホタルが言いたいのは理解してるよ。第七班の任務は本来【タズナさんを自宅に送り届ける】まで。だが何故任務が続行されるのか納得できないんだろ」

 カカシ先生の言葉に頷く。

 私のその疑問は人として薄情なものであった。タズナさんを見捨てろと言っているようなものなのだから。

 けれど、第七班のメンバーの顔を思い出す。
 ナルト君やサクラちゃん、サスケ君。

 再不斬が生きており再度対峙する可能性があるのならば、私はタズナさんよりもナルト君達の身の安全をとる。

 きっとNARUTOのストーリーでは再不斬と再戦する展開があるのだろう。そこでおそらくみんなが成長して、強くなっていくのかもしれない。
 けれどこれは現実だ。回避できる危機には出来るだけ避けた方が良い。

 それにもしかしたら、誰かが死んでしまう可能性だって捨てきれなかった。あれだけ長く続く漫画で、こんな序盤に主人公達が死ぬとは思えないが何が起こるか分からない。

「私は自分でも酷いことを言ってると自覚しています。だけど、ナルト君達がいくら成長しているとは言え、あれだけ格上の相手に何も通用しない可能性だってある。今度こそ、みんなが死んでしまうかもしれない」

 カカシ先生が水牢の術で拘束されていた時、ナルト君達は体を張って再不斬と対峙した。あれは奇跡的に上手くいっただけだ。本当だったら、全員死んでいたかもしれない。

 しかしそれを言葉にするたびに命をかけて木の葉の里までやって来たタズナさんや、彼の家族であるツナミさん、イナリ君の顔が頭にちらつく。

 するとその時、カカシ先生がぽつりと言った。

「…………ホタル、すまなかったな。そんなことを言わせて」

 顔を上げれば、先生が穏やかな表情をしていた。
 いつも私達はギスギスとした会話ばかりしていたため、先生のそんな顔を見るのは初めてだった。

「ホタルに話した通り、本来ならばタズナさんを送り届けるまでが任務だ。再不斬が生きているということを伏せて、ここから出れば良かったとも思う」

 自分が言ったことでもあるのに、それに頷くことができなかった。

「しかしそうした場合タズナさんは死ぬだろう。波の国はそのまま衰退し経済的にガトーの手中に収まるかもしれない。国家規模の話だ。遅かれ早かれそれを知ることになった時、ナルト達はどう思う」
「………………一生、後悔することになりますね」

 最初のCランク任務で関わったタズナさんが再不斬によって死んだとなれば、人の良いあの子達は絶望するかもしれない。知らなかったとは言え、見捨てたようなものだから。

「ナルト達を無理矢理木の葉の里に連れ帰っても良い。忍における非情さを学ぶ良い機会にもなるしな。………だがそれをすれば、あいつらの今後の任務への向き合い方が大きく変わる」

 水を吸うように成長し、環境や大人達の態度から価値観を学んでいく十代前半の子供達。

 依頼人であったタズナさんをあれだけ守ったにも関わらず、再不斬によって殺される。

 この先用意される護衛任務でいくら依頼人を守っても結局自分の知らない場所で殺されるかもしれないと思った時、命をかけてその人を守ろうとすることが出来るのだろうか。
 そう考えると、ナルト君達にとってこの任務は非常に重い意味を持つ。

「忍には命をかけてでも何かを守らなければならない場面が度々起きる」
「………………」
「何、死なせやしないよ。絶対に」

 私はずっと自分の価値観に沿ってものを考えてきた。

 けれどここにきて、改めてこの世界にある忍の常識や信条を理解していなかったと痛感する。私は忍は辞めたいけど、ナルト君達は続けたい。

 この先のことを見据え、命をかけてでも彼らは成長しなければならないのだ。

「………………それは、私もですか?カカシ先生、私のこと苦手でしょう」

 苦笑しながらそう聞けば、カカシ先生はいつもより優しい顔で笑ってくれた。

「ホタルも死なせないよ。ま、正直何考えているのか分からなくて困ってたけど、今話してみてようやく理解できた。案外普通の、仲間思いの子だったってわけだ」

 先生の言葉が何だか可笑しくて、私も笑ってしまった。

 そして「タズナさんを見捨てなくて良いんだ」と思った時、自分でも自覚していなかったけれど心の底から安堵した。







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