朝早く起きて、私はまずツナミさんのもとに向かった。
ツナミさんはすでに起きており、今から朝食を作り始めるのかエプロンをかけている。
「おはようございます。ツナミさん、お邪魔じゃなければ何かお手伝いをさせてください。一人暮らしをしていますので、一通りはできるはずです」
「あら、早いわね。おはよう。でも良いのよ?疲れているでしょう」
「いえ、動いていないと色々と落ち着かなくて………」
「そう?それだったら……、悪いけど庭の水やりをやってもらって良いかしら?」
「もちろんです。また終わりましたら声をかけますね」
ツナミさんにホースの場所を教えてもらい外に出る。
そして庭の植物に、気をつけながら水やりを始めた。
───昨夜カカシ先生から任務続行の意図を聞いた後、私はあることに気付いてしまった。
任務続行ということはタズナさんの家に一週間滞在させてもらうのだ。
ここで家事をしているのは、おそらくシングルマザーであるツナミさん。つまりツナミさんからして見れば、4人の子供達と成人男性が家に押しかけてきたわけだ。
……………きつい、よね?
いくら護衛してくれると言っても、いきなり5人もの人間がやって来るのは普通に嫌だよね?しかもその分食費も掛かるし家事の労力も増える。
それを考えた瞬間、私はぞっとし、ツナミさんに対してただひたすら申し訳なかった。
彼女の負担を少しでも減らすべく第七班である私達は最低限自分達のことをし、出来る限り手伝いを引き受けた方が良いだろう。
しかし昨日今日で、いきなりみんなにそれを求めるのは酷な話。あとで第七班の子達にやんわりと伝えるつもりだが、とりあえず今は私だけでもこうして手伝いを引き受けることにしたわけだ。
いや、でもカカシ先生からみんなに言ってもらった方が良いんじゃ……。
しかし後に、先生からタズナさん宅の世話になるのなら手伝いをしろと言うお達しが出たため、それは杞憂に終わった。
◇
「───ではこれから修行を始める!」
森の中の空き地に集められた私達は、打倒再不斬のために修行をすることになった。
カカシ先生が言うに私達はチャクラをまだ使いこなせていないらしい。身体エネルギーと精神エネルギーを体内でうまく練り上げることによって、効率的な術の発動を行うことができるそうだ。
「で、今からお前らにやってもらうのは【木登り】だ」
「木登り?何で木登りが修行になるんだってばよ」
「ただの木登りじゃない。手を使わないで登るんだ。ま!見てろ」
そしてカカシ先生は印を組むと、近くにある木を垂直に歩き出した。何だかトリックアートみたいな光景だな………。
「と、まあ、こんな感じだ。チャクラを足の裏に集めて木の幹に吸着させる。チャクラはうまく使えばこんなことも出来る」
先生が言うに、この修行ではチャクラコントロールを身につけ、チャクラを持続させるスタミナをつけることが目的らしい。正直全くできる気がしないが、少しでも再不斬から生き延びれるよう頑張るしかない。
「んな修行、オレにとっちゃ朝飯前だってばよ!なんせオレってば今一番伸びている男!」
「ごたくはいいから。お前ら早くどの木でもいいから登ってみろ」
カカシ先生が私達の前にクナイを投げつける。どこまで登れたかこれで木に印をつけろ、とのこと。
そして私達は一斉に木に向かって走り出した。
◇
「ごめんね、サクラちゃん。本当に助かるよ」
「いいのよ。別に」
木登りの修行はサクラちゃんが一番早く習得した。
そして私はというと、サクラちゃんにマンツーマンで教えてもらっていた。
ナルト君は込めるチャクラ量が少ないのか途中で木の幹から足が離れてしまうし、サスケ君は逆にチャクラ量が多く幹を破壊してしまう。
そして私もチャクラ量の調節がうまくいかず、それならサクラちゃんに初めからコツを教わった方が早いと手伝ってもらっているのだった。
サクラちゃんに逐一アドバイスをもらい、木登りをする。サクラちゃんも私に合わせて横の木を登っているのだが………、私にアドバイスしながら並走しているサクラちゃんが末恐ろしい。おそらくもう無意識の段階でチャクラをコントロール出来てしまっているのだろう。
「ほら、あの木の枝まで登るわよ!あそこでちょっと休憩しましょう!」
そしてサクラちゃんの指す木の枝まで何とか登り切り、そこで腰をかける。彼女も隣の木から飛び乗って、こちらにやって来た。
木の枝は太く丈夫そうであるため、子供2人が乗っても折れることはないだろう。
「お疲れ様。ホタルってばやるじゃない。ちょっと教えただけでこんなにも登れたわ」
「いや、絶対にサクラちゃんのおかげだよ。私一人だったらここまで登れなかった」
下を見れば地上から10メートル以上距離がある。そしてナルト君とサスケ君は四苦八苦しながら木に登っていた。
サクラちゃんのマンツーマンがなかったら、私も2人みたいになっていたに違いない。
「……………でも、本当にすごいわよ。少しアドバイスしただけでコツを掴んだし…………それに度胸もあるし」
するとサクラちゃんが横でぽつりとつぶやく。
膝を見つめ、どこか落ち込んでいるその様子に彼女が何か抱え込んでしまっていることを察した。
しばらくして、サクラちゃんは口を開く。
「ホタルは、カカシ先生が再不斬に捕まった時怖くなかったの?…………私は再不斬の殺気に当てられて動けなかった。でもあの場でホタルは立ち向かおうとしたし、ナルトやサスケ君だって再不斬に挑んでカカシ先生を助けたわ」
「あれは………」
「私はただみんなを見ているだけだった」
それは、違うだろう。
サクラちゃんにタズナさんを守るよう指示したのは私だ。
それに正直あの場に再不斬以外の忍が潜み、隙を突いてタズナさんに襲いかかってくる可能性だってあった。そんな中でサクラちゃんは一人でタズナさんを守り切ってみせたのだ。
しかしそこでふと気付く。
もしかしたらサクラちゃんは怖いのかな。
初めての里外任務に、中忍レベルの忍達からの襲撃。そして鬼人再不斬。
またそういった状況で、同性であり同い年の私が平気そうに(内心全然平気じゃない)しているのを見て、不安になっているのかもしれない。
そりゃそうだよね。忍とは言え、サクラちゃんは正真正銘の12歳の女の子なのだ。ナルト君やサスケ君は打倒再不斬達に向けて燃えているが普通は違う。
そう思うと、隣にいる一人の女の子の不安をどうにかして取り除いてあげたいと思った。
そして昨日のカカシ先生との会話を思い出す。
「……………私に度胸なんてないよ。それに実はね、昨日カカシ先生に話したの。任務を中止にするべきだって」
「え?」
「私も不安だったの。相手はビンゴブックに載るような相手だったし。だからサクラちゃんが言うような度胸も全然なくて………。幻滅したよね。タズナさんを見捨てようって言ってるようなものだから」
昨日の会話は第七班のメンバー達に話すつもりはなかったけれどサクラちゃんの心の負担が無くなるのなら、と話すことにした。
「でもカカシ先生が死なせないって言ってくれたし、今こうして再不斬達に対抗できるよう強くなる準備もしている。サクラちゃんと同じで私もすごく不安だけど………」
これが少しでも気休めになってくれたら良い。
そう思っているとサクラちゃんは私の顔をじっと見つめた後、自分に言い聞かせるように言った。
「………そうよね。怖くないはずなんて、無いのよね。ありがとう、ホタル。それから幻滅なんてしてないわ。ホタルが言わなかったら私がカカシ先生に言ってる」
「そうかな?」
「ええ。それにほんの少しかもしれないけど、私だって成長してる。木登りだって一番に出来たんだから!」
「そうそう。ちょっとずつでも、みんなちゃんと強くなっているよ」
少しずつ元気を取り戻していくサクラちゃんにほっと安堵する。良かった良かった。
「それから、私も色々考えてみたの。この修行でやれることはたくさんあるかもって」
「やれること?チャクラの持続だけじゃなくて?」
「ええ。例えば……ええと、チャクラを込めることで色々攻撃の幅も増えると思うの。敵を殴ったりするとか、そうしたら威力も上がるんじゃないかしら」
それを聞いて確かに、と納得する。私はそこまで考える余裕もなく、ただに木に登っているだけだった。
サクラちゃんが自分なりに出来ることを考えていたことに感心する。やっぱり頭良い子は違うな……。
そこでふと木の下で木登りを続けているナルト君とサスケ君の姿を見た。まだ彼らは苦戦しているようだった。
「良かったらあの2人にも教えない?ナルト君もサスケ君もそういうの好きそうだし。もちろん、木登りのコツとかもさ。私達にはサクラちゃんの力が必要だよ」
そう言えばサクラちゃんの強張っていた表情は緩み、少しだけ笑みを浮かべて頷いてくれた。
◇
───時は流れて数日後。
修行はサクラちゃんからのアドバイスもあって順調だ。
サスケ君はサクラちゃんからアドバイスをされるのが恥ずかしいのか、コツを教えてもらう際そっぽを向いていた。けれど話はしっかりと聞いてはいたらしい。
ナルト君もサスケ君も、そして私も何なく木に登れるようになってきた。
そしてそんな最中、私達はタズナさんからガトーの行った所業を聞く。
イナリ君のお父さんであるカイザさんの、ガトーによる公開処刑。
一企業の民間人が波の国に対してこのような横暴をできるのが不思議でならないが、この国は海に囲まれており閉鎖的だ。SNSとかあったら情報は巡り一発で炎上(というか逮捕)されるものの、この世界にはそんなものはない。
表向きガトーの会社は優良企業であるからにして、きっとガトー個人の権力が大きいと思うが……。
しかし不意にあることが思いついた。
今こうして私達は再不斬達を倒すために修行しているけれど、そもそも再不斬を倒す必要は無いのでは、と。
根本的な原因は再不斬ではなく、ガトーなのだ。
再不斬を何とかするのではなくガトーをどうにかした方が早いのではないだろうか。
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