「カカシ先生、私達ってそもそも再不斬を相手にしなくても良いんじゃないでしょうか?」
「いきなりどうした?」
タズナさん宅で夕飯を食べた後、再び修行に出掛けようとするナルト君とサスケ君を引き留めて私はカカシ先生に聞いた。
ナルト君はいきなり話し出す私に対して「何言ってるんだってばよ」と言う顔をしている。そして食卓を囲む第七班のメンバーやタズナさん達(イナリ君はご飯を食べた後どこか行ってしまった)も不思議そうな顔をした。
「再不斬はガトーから雇われている忍ですよね?それなら雇い主であるガトーに対して何かしらのアプローチをすれば済む話なんじゃないかと」
「例えば?」
「例えば………」
ガトーを暗殺するとか?
と言おうとしたが口をつぐむ。
再不斬が負傷している今、おそらくガトー周辺の守備は手薄だろう。それを見越して襲撃しても良いが、流石にガトーの暗殺は任務範囲外すぎるし経済界への打撃が大きすぎる。
「例えば………ガトーが再不斬に対してどういった契約をしているか分かりませんが、それを破棄させるような契約を新たに結ばせるとか……。幻術か何かで洗脳して契約破棄の旨が書かれた念書にサインさせたり、あとその際に波の国から手を引くような書類にもサインさせたらどうですか?」
「……………」
「でも色々穴がありますよね。すみません……。それかガトーを脅して銀行預金を引き出すのはどうでしょうか?それを元手に再不斬にタズナさん達から手を引くよう再依頼するんです。………あ、でも再不斬の気持ちがどう転ぶか分からないので賭けに違いないですよね」
自分で話を切り出したにも関わらず名案が浮かばない。それにガトーの居場所を探し出すのも難点である。
あくまでガトーを害するのが目的ではなく、ガトーと再不斬の間にある契約をどうにかすれば良いと思うのだが……、どうしたら良いんだろうなあ。
ナルト君達にとって対再不斬戦は成長できる機会なのかもしれない。
だけど、やっぱり、こう……。タズナさんを見捨てなくても良いのなら、こういうやり方したって別に良いんじゃないだろうか。タズナさんを【あらゆる脅威】から守る方法の一つとして。
そして再不斬と闘うのは最終手段だ。
「どうでしょう?あ、カカシ先生だけじゃなくて、みんなも何か良い方法があったら教えて…………って、あれ?」
ガトーに対してのアプローチを聞くため顔を上げてみたが、何故か一同顔が引き攣っていた。あのナルト君やサクラちゃんでさえ見たことないような顔をして私を見ている。
「え、ちょっと、どうしたの?あれ?………あ、私変なこと言ってるんだよね。突っ込みどころ満載な……!」
そうだよね!こんなガバガバな計画立てたところで成功するとは限らないし!
ガトーを殺すよりも良心的で忍だったらこれくらいやっても良いかな?と思ったが、突っ込みどころ満載すぎてみんな呆れてしまっているのかもしれない。
恥ずかしすぎて顔から火が出そうだ。思わず横にいるナルト君に「ね!」と同意を求めるが、何故か目を逸らされてしまう。
するとカカシ先生が口を開いた。
「そういうことじゃないんだが………。ま、ガトーの居場所を探すのは今からだと難しいな!その間に再不斬が回復するだろうし」
「やっぱりそうですよね」
「それにおそらく再不斬は追い忍の追跡から逃れるために、ガトーのもとにいるかもしれない。そう推測すると再不斬からガトーを裏切るような真似はしないよ」
よっぽどのことがない限りね、と先生が付け加える。
それに素直に頷けば、何故か先生は何とも言えない顔で私を見つめていた。
そんな目線にさらに恥ずかしくなり話を変える。
「ナルト君とサスケ君も引き留めちゃってごめんね。私の話はここまでだから、もう木登りの修行に行ってもらっても大丈夫だよ」
そう言えばナルト君達は遠い目をしながら頷く。うわ、めっちゃ引いてるよこれ。発言の阿呆さに引かれてしまうのは中々堪える。
カカシ先生やサスケ君はまだしも、ナルト君やサクラちゃん、おまけにタズナさんやツナミさんからも「こいつ……」みたいな顔で見られるのは非常にきつかった。
「ホタルのこと、ちょっと勘違いしてたかもしれないってばよ………」
「ごめんごめん。変なこと言って」
そうだよね。ナルト君の前では私【優等生】だったもんね。それがいきなり計画性のないこと話すものだから、反応に困ってしまったかもしれない。
ガトーを暗殺する云々まで言わなくて良かったと、心から安堵すると同時に、結局再不斬を相手にしなくてはならないことに肩を落とした。
◇
───翌日の早朝。
ツナミさんよりも早く起きてしまったため、手伝いである庭の水やりを終えてから私は散歩に出掛けていた。
タズナさん宅から少し離れた森でぼんやり歩きながらふと思う。
乗りかかった船ということで色々と考えてみるものの中々名案は浮かばないし、ここでちょっと考えたくらいの案ならとうの昔に波の国の人達がやっているはずだ。
いざガトーに会った時のために、一応タズナさんからタイプライターと紙をもらって波の国から撤退する旨が書かれた書類一式を用意したのだが……。何だかから回ってしまっているような気がしてならない。
「燃やしちゃおうかな、これ……」
懐から書類を取り出してペラペラ捲る。
念のためガトーが不慮の事故死をした場合のことも想定して書類を作成したが、果たしてこれが使われる時が来るのだろうか……。
するとその時、前方から誰かが歩いてくるのが見えた。
朝の散歩仲間かな?と思い目を凝らせば、そこには長い髪をした綺麗な少女がいる。私よりも少し年上の女の子。
………………うん?………女の子?あれ、男の子な気がする……。何だろう。どこから見ても女の子なのに男の子にも見えるぞ……。いや、よく見れば男の子か!?
チョーカーを付けているため分かりづらいが、ほんの少し喉仏ができている。それと骨張った手先から彼が男性である可能性が浮き上がった。
そしてはっと一瞬息を呑んでしまったのも束の間。それを表に出すのは非常に失礼であり、異性でも同性でも結局はどちらでも良いと思い直して、私は慌てて愛想笑いを顔に浮かべる。
「おはようございます。朝早いですね」
書類一式を懐にしまいながら挨拶すると、その子は何故か訝しげな表情をした。
しかしその後すぐに微笑んで会釈してくれる。
何で一瞬、不審者を見るような顔をしたんだろう。
木の葉の忍がここら辺を彷徨っていたら、びっくりされてしまうため額当ては付けていない。もしかしたらちゃんと愛想笑いできていなかったとか……?
それかこんな朝早く見慣れない子供が森の中にいて不思議に思っているのかもしれない。
「…………君はここらで見ない子ですね」
「はい。父の仕事で波の国に用事があったので、しばらく滞在しているんです」
「へえ……?父親の?」
「最近大きな橋が建設されていますよね?その仕事に携わっているんです」
忍の任務として来ましたなんて答えても不審に思われるだけだろう。それらしいことを話せば、じっと私を見つめた後「そうですか」と頷いた。
「でも心配でしょう。あの橋は目を付けている人間が多いので」
目の前の子が聞いてくる。
それに私は困ったように笑いながら答えた。
「波の国に住んでいる人はご存知なんですね。………ガトーについてもやっぱり知っていらっしゃるんですか?」
「ここらでは有名な話ですからね。あなたのお父様もさぞ大変でしょう。身内のあなたももしかしたら狙われてしまうかもしれませんよ」
「あはは、そうなったら父と一緒にすぐに逃げます」
「………………ふふ、どうだか」
少しだけ笑ってくれるが、何だか奇妙な間が開いたのは気のせいだろうか。
………やっぱり変な風に見られてるのかな?
不審な人間だと思われたくないため、ここはもう少し子供っぽく振る舞おうと口を開いた。
「ガトーの居場所が分かれば良いんですけどね」
「おや、闇討ちですか?」
「違いますよ!お願いするんです。波の国から出ていってくださいって。ちゃんと契約書だって書いたんですから!」
ど、どうかな?12歳の女の子が少し背伸びするものの【お願い】という言葉を使っているせいで、どこか微笑ましくなってしまうこの感じ。
中身成人済みの自分がやるには非常に恥ずかしいが背に腹はかえられない。不審者だと思われないため必死に子供(ピエロ)を演じた。
けれど相手の眼光が余計鋭くなったような気がしてならない。あ、あれ?やっぱり駄目だった?
「ふふ。まあ、良いでしょう。化かし合いもここまでにしますか」
「ば、化かし合い……?」
「……………あくまでもシラを切るんですね。確かにここで争っても仕方がない。大人しく退きますので、あなたも真っ直ぐ帰るんですよ」
何言ってんだこの子。そう思ったものの、その子はくすりと苦笑してその場から去ってしまった。
ええ、何ー…?本当にあの子何なの?
◆
タズナの護衛任務によりやって来た、木の葉隠れの忍達。その内の一人である少女と早朝の森で出会い、白は彼女との会話を思い出しては苦笑した。
白の姿を見た瞬間、はっとした表情をする少女。
しかしすぐさま上っ面な笑みを浮かべる様を見て、彼女は白が再不斬の仲間だと気付いたのだろう。そうでなければ自身を見て息を呑むほど驚く理由がない。
あの時、面を付けてはいたが変化の術は使っていなかった。白の背格好と纏う気配によって見抜かれたのかもしれない。
『おはようございます。朝早いですね』
『父の仕事で波の国に用事があったので、しばらく滞在しているんです』
『最近大きな橋が建設されていますよね?その仕事に携わっているんです』
そして彼女の口からつらつらと語られる嘘。互いの素性に気付いているにも関わらずしらばっくれる少女の面の厚さに辟易とした。
「…………どうした、白」
ガトーに用意された隠れ家にて。ベッドに横たわる再不斬は、窓の外をぼんやりと見つめる白に投げかけた。それに白は「いえ」と首を振る。
「森で木の葉隠れのくノ一に会ったんです。あの焦げ茶色の髪の女の子です」
「…………あの小娘か」
「僕の正体を知っていて尚シラを切られました。あの子、相当な食わせ者ですよ」
そしてくすりと小さく笑う。
あの下忍の子供達の中で随分と毛色の違う、少女の笑み。それが白の頭にべったりと貼り付いた。
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