数日後、木登りの修行がひと段落し、カカシ先生も回復した。そして私達は今日をもってタズナさんの護衛任務に再度就くことになった。

「じゃ、ホタル。ナルトを頼むな」
「分かりました。お気を付けて」

 私とナルト君を除く第七班はタズナさんの護衛のために橋へ行く。
 私はというと、未だに寝こけているナルト君を起こす(また体が動かないほど疲弊していた場合無理矢理寝かせる)という使命を仰せつかり、タズナさん宅に残っていた。

「すみません、ツナミさん。すぐにナルト君を起こしてタズナさんの護衛に行きますから」
「良いのよ。ナルト君もずっと修行していて疲れちゃったんだわ」

 ツナミさんが微笑ましそうに言う。
 そして彼女のすぐ後ろにいるイナリ君に「騒がしくてごめんね」と言えば、そっぽを向かれてしまった。

 その様子を見て、ふと昨夜のことを思い出す。

 ガトーの恐ろしさを身をもって知るイナリ君が、くたくたになるまで修行を続けるナルト君に泣きながら声を荒げたのだ。

 この国のことを何も知らないお前が出しゃばるな。お前に何が分かるんだ、と。

『お前みたいなバカはずっと泣いてろ!泣き虫ヤローが』

 それに対してナルト君が言い放った言葉。そしてナルト君はそのまますぐに寝てしまい、イナリ君は家から飛び出してしまった。
 そこで何か言えたら良かったのだが咄嗟に声をかけることができず(不覚……)こうして朝を迎えてしまったわけだ。

「イナリ君」
「な、何」
「昨日はごめんね。イナリ君の言う通り、余所者の私達が波の国の問題にとやかく言うのは気分が良くなかったよね。………きっと、ナルト君も言い過ぎたと思っているから、彼が起きた時には無視しないでくれると嬉しいな」

 そう言えば、イナリ君は気まずそうに俯く。ツナミさんが「こらっ」と叱るが、彼の心情を思うと素直に頷くことはできないだろう。

 それじゃあ、あの寝坊助を無理矢理起こしに行きますか、と私は気持ちを切り替えた。




 ◇




「寝坊したってばよーーーー!!!!」
「よし、ナルト君。体調はどう?その様子なら動けるね。はい、服。向こうで着替えて。顔も洗って。あと忍具はここに置いとくから。それと朝食はツナミさんが軽くつまめるものを用意してくれているから、食べながらタズナさんのとこに行くよ」
「え、あ、わ、分かったってばよ!」

 耳元で大声を上げたり肩をめちゃくちゃ揺さぶったりした結果、ようやくナルト君が起きてくれた。
 そんな彼にあらかじめ準備をしていた諸々の用意を渡せば、ナルト君は目を白黒しながらも頷いた。

「ホタルってばオレのこと待っててくれたの?」
「うん、カカシ先生に言われてたしね。あと………」

 タズナさんの所に行く前にイナリ君に一言謝っておいた方が良いんじゃない?

 そう言おうとしたが口をつぐむ。
 私とナルト君は(外見は)同い年なのだ。そんな同い年の子供の私が大人のように言っても素直に聞くとは思えない。

「イナリ君が昨日のこと、ちょっと気にしてる様子なんだよね……。どうしたら良いかな?」
「………オレ、ちょっと言い過ぎたと思う。イナリの奴にはオレから謝っとくってばよ!」
「本当?」
「おう!」

 これでナルト君とイナリ君の関係も何とかなりそうだ。私達は任務とは言え、タズナさん宅で世話になってる身だからね。共同生活するのなら人間関係は円滑にしておきたいし、互いに仲違いしたままだとナルト君もイナリ君も気まずいだろう。

 ───するとその時、一階から瓦礫が崩れるような音とツナミさんの叫び声が響いた。




 ◇




 侍崩れのチンピラの強襲によって、タズナさん宅の壁にぽっかりと空いた。その横穴を見て溜め息を吐く。
 私達が一階に駆け下りれば、そこには二人組の輩に捕まったツナミさんとイナリ君の姿があったのだ。

 そしてナルト君と私でそいつらをボコボコにし、捕縛した後私は奴らの内一人に尋問していた。

「ここに来るってことはガトーの差し金だね。貴方達みたいな人も雇われてるってことはもっと多くの輩もいるってこと?まさかツナミさんだけじゃなくて街の人や橋関係の人達の所にも行って暴れてるの?」
「クソ餓鬼がッ!誰がテメエに教えるか!」
「早く答えないと一生刀を持てないような手にするよ」

 縄に縛られたチンピラの一人が苛ついたように私を睨む。ちなみにもう一人はすでに海に落としてきた。

 忍ではない、鉄砲玉のようなチンピラはおそらく単価が安い。ガトーほどの富豪ならば何人もの忍(抜け忍に頼るのも恐ろしいが…)を雇うことは造作もないはずだ。
 しかし忍ではなく、こういった輩も雇っているということは奴が相当のケチであるか、それとも数に頼って荒くれ者どもを大量に雇っている可能性があった。

 しかし時間がない。
 おそらく今頃橋の方に再不斬が襲来しているだろう。早い所聞き出したかった。

「ちなみにもう一人の人が教えてくれたよ。ガトーが大量の人員を雇って何かするって。利き手じゃない方の手をクナイでぐしゃぐしゃにしたらすぐに吐いてくれた。今頃きっと逃げているでしょうね。あなたを裏切って、一人で遠くに」

 もちろん嘘である。しかし血(血糊)で汚れたクナイをかざせば、彼は可哀想なくらい顔を真っ青にさせた。

「アイツ………!!」
「でも早く教えてくれたら、すぐにでもあなたを解放する。今なら逃げたあの人に追いつけるんじゃないかな?」

 何でも良いから早く教えてくれーー!
 早く!早く!と内心急かしていると、その侍崩れのチンピラは忌々しそうにぼろぼろと吐いた。

 彼の話によるところ、ガトーは100人以上の荒くれ者を雇っており、カカシ先生達との戦いで疲弊した再不斬諸共タズナさんを始末するつもりらしい。
 え、再不斬も?と思ったが、抜け忍の再不斬を霧隠れの忍から匿うのは随分と大変そうで早い所手を切りたいそうだ。

 とりあえず民間人(タズナさん達除く)に被害が及ぶような企てはないらしく、ほっと安堵する。
 けれど橋に100人以上の荒くれ者どもが強襲しようとしてくるなら、すぐにでもみんなに伝えた方が良い。

「どうもありがとうございます。聞きたいことは聞けましたので、それじゃあ………」
「あッ!テメ……!!」

 そう言って縄で縛ったままのチンピラを桟橋から海に落とす。

 チンピラの処遇を考えた時、縄で縛ったまま気絶させても良かったが、いずれ覚醒して縄を解いてしまうかもしれなかった。また単純に海に落としたとしても泳いで再びツナミさん達に危害を加えるだろう。
 そう考えると縛ったまま海に落として、この場から物理的に離れさせるのが得策だ。

 良心は確かに痛む。けれどこの忍のいる世界は《《やらなきゃやられる》》のだ。
 転生前のことを思うとあり得ないが、今世の父や母だってあっさりと死んでしまった。

 それに、まあ、手は縛っているが足は自由にしている。幸い海の波は穏やかであるため体が沈むことはないだろう。それに流れ着いた先でもう一人のチンピラと再会し同士討ちをしてくれるかもしれない。

「───ナルト君、お待たせ。今の聞いたよね?急いでタズナさんの所へ行こう」

 後ろに控えていたナルト君に声を掛ければ、彼はイナリ君と仲直りしたのか隣り合って立っていた。

「ホタル……。お前敵には容赦ねえってばよ」
「ナルトの兄ちゃん、この女怖いよ」

 え、あ、あれ!?
 私はそんなナルト君達の反応にぐさりと傷付いた。







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