第七班に不知火ホタルという少女がいる。
アカデミー時代からの付き合いで、授業についていけないナルトに勉強を教えたり、たまに修行にも付き合ってくれる面倒見の良い少女であった。
大人達から遠巻きにされ同級生達からは馬鹿にされても、彼女はまるで恩師のイルカのように気にかけてくれる。同い年の子供であるけれど、どこか大人びたホタルのことをナルトは姉のような気持ちで見ていた。
一人でいたらさりげなく声をかけてくれる、仲間思いな少女。
しかしタズナの護衛任務で垣間見せたホタルの二面性に、ナルトは彼女が優しいだけの少女ではなかったことにようやく気付いた。
第七班のメンバーや一度懐に入れた者にはとことん親切であるのだが、敵に対してじめじめとした陰湿さを見せる。ガトーの対策にツナミとイナリへ襲い掛かったチンピラどもへの容赦のなさ。
『怖がらせちゃってごめんね』
引き攣るナルトにホタルは申し訳なさそうに言った。
一般人に被害が及ぶ可能性があるならば、敵に対してどんなことでも行えてしまいそうなホタル。任務序盤に、不安そうな顔をして木の葉の里に帰ろうと言ったか弱い少女の姿はどこにもなかった。
そんな彼女の一面に驚きながらも、同時にナルトは自身の甘さを痛感する。こんな自分が、これから対峙する敵に対して非情な選択ができるのか。
何故、ホタルはそんな風に考えられるのだろう。
アカデミーに入学して、授業を受けて、同じタイミングで下忍になったというのに。
ホタルが仲間思いの優しい少女だということは、身をもって知っている。
けれどナルトはそんなホタルを絶対に怒らせてはいけないと誓うとともに、彼女が何かを抱えていることを察した。
そしてそれを、いつか自分に打ち明けてくれたらと心から思った。
◆
橋にたどり着いたナルトとホタルは工事に使われる鉄骨の影から戦況を覗いた。
カカシは再不斬と交戦しており、サクラはタズナを護衛している。
そしてサスケはというと冷気を発する多数の魔鏡に囲い込まれていた。魔鏡に映し出されたお面の少年が目にも止まらぬ速さで鋭い斬撃を放ち、サスケに襲いかかっている。
サクラが一瞬タズナの元から離れクナイを投げつけるが、お面の少年が魔鏡からぬるりと現れ易々とそれを掴み取った。
魔鏡に囲まれた傷だらけのサスケ。その鏡に映る幾人ものお面の少年の姿。
少年の術によって追い詰められるサスケに、ナルトは居ても立っても居られず飛び出そうとした。
しかしそれを、ホタルが背後からがしりと止める。
「何すんだってばよ!!早くしないとサスケが!!」
「……………あの子、クナイを投げたら動きを止めた。ナルト君、耳を貸して」
そしてホタルは急かすナルトに作戦というにはお粗末な計画を伝える。
「───いける?ナルト君」
「いけるってばよ!ホタルは?」
「私はカカシ先生のところに行ってガトーの思惑を伝えに行く。上手くいけば再不斬と休戦できるかもしれないから頑張るよ」
そう言って2人の忍は頷き合う。
そして彼らは鉄骨の影から飛び出した。
「よ!助けに来たぞ!」
魔境に囲まれた空間にナルトが意気揚々と現れる。
それにサスケは目を丸くし「このウスラトンカチが!」と一喝した。
忍ならば、敵の術発動空間に正面切って乗り込む輩はまずいない。しかしあっけらかんとお面の少年の空間内に入り込んだナルトにサスケは目眩がしそうだった。
けれど当のナルトはまあまあと、まるでホタルのようにサスケを宥め彼に耳打ちする。
ナルトがここに来る前にホタルの言った言葉。
お面の少年に警戒しながらそれを話せば、サスケはすっと表情を引き締めた。
「テメエみてえなドベと協力する気にはならねえが、やるしかねえようだな」
「ドベとは何だ!!」
ナルトはサスケの言葉に思わずぎゃあぎゃあと反論したが、すぐに目の前の四方八方囲む魔鏡と幾人ものお面の少年を見据えた。
ナルトだってサスケと協力するだなんて嫌だった。けれど任務をこなしていく内に、このいけ好かないライバルの実力を認めていったのも事実だ。
───それに、何の準備もせずにのこのことやってきたわけではない。
するとその時、魔鏡に映るお面の少年がそんなナルト達を見て口を開く。
「あなた達は今の状況を分かっているんですか?」
少年の静かな声が周りを囲む魔鏡に響いた。
「四方から放たれる斬撃に絶対に捕まらない敵。こんな状況でまさか勝てると?………出来るなら君達を殺したくないし、君達にボクを殺させたくない。けれど君達がこうして向かってくると言うなら、ボクは刃で心を殺して忍になりきる」
朗々と語る少年の言葉にナルト達は身構える。武者震いなのか肌にぞわりと鳥肌が立った。
「ボクは大切な人を守りたい。その人の為に働き、その人の為に戦い、その人の夢を叶えたい」
その瞬間、ナルトの脳裏に早朝森で出会った美しい少年の姿を思い出した。
『───あなたには大切な人がいますか?』
『人は、大切な何かを守りたいと思った時に本当に強くなれるものなんです』
それを聞いた時、ナルトは木の葉の里で世話になった恩師のイルカや第七班のメンバーの顔が思い浮かんだ。
そして衰退していく波の国に再び息吹を吹き込もうとするタズナや、誇り高く死んでいったイナリの父を思う。
お面の少年の言う大切な人や思いがナルトにも確かに存在した。
「それがボクの夢。その為ならボクは忍になりきる。あなた達を殺します」
◆
少年が言い終わるか否やのタイミングで、サスケは印を結び終えた。
───火遁 鳳仙火の術!!
口から噴き出すのはいくつもの灼熱の火球で、手裏剣を忍ばせた無数のそれらは周囲を囲む魔鏡全面に放たれた。
しかしそれをお面の少年は高速でかわし、同時に2人に鋭い斬撃を喰らわす。
「無駄ですよ。先程も言いましたが火遁だけじゃボクの魔鏡を溶かすことはできない」
けれど、それが狙いだ。移動した後、わずかに出来る空白の間。ナルトの脳裏にホタルの言葉がよみがえった。
『時間がないから手短に話すよ。さっきサクラちゃんのクナイをお面の子が掴んだ時、攻撃は止んだでしょ?それと同時にあの子の体が鏡から現れた。その瞬間がチャンスだと思う』
そのチャンスが今訪れた。
───次の瞬間、魔鏡の外側から何本ものクナイが飛来する。
「一体どこから……!」
魔鏡に向かって放たれたそれを少年が掴む。
するとその時、
外側で待機していた何人ものナルトの影分身がどこからともなく現れた。そして姿を出す少年の体を影分身達が即座に捕らえる。
「な!?」
『あらかじめ外で待機している影分身に捕まえさせる。そうすれば奴は移動することができないはずよ』
ホタルの声が頭を過ぎる。
本体は一人。魔鏡に映るのは幻像。本体の動きを止めさえすれば攻撃は止まるのだ。あらかじめ外で待機させていた影分身に隙を突いて少年を捕まえさせれば良いだけの話である。
しかし問題はこの後だった。
お面の少年を魔鏡から引き剥がすことができない。魔鏡の空間は未だナルト達を囲っている。
『ナルト君、木登りの修行の時にサクラちゃんが言ってたよね?チャクラを込めることで木に引っ付くだけじゃなくて攻撃にも活かせるんじゃないかって』
ホタルの言葉を思い出し、チャクラを拳に込める。隣を見ればサスケも印を組み、チャクラを拳に込めていた。
ナルトはその刹那、奇妙な気持ちになった。
アカデミー時代、あれだけ目の敵にしていた奴とこうして共闘している。同じ班員であり、仲間であるから。一人ぼっちだった小さい頃、あれだけ焦がれていた仲間の存在がいつの間にか出来ていたのだ。
同時にあの頃の一人だった幼い自分が救われたような心地がした。
サスケや他の班員がどう思っているかは分からないが、そう思うと自然に力が込み上がる。感じたことのない高揚が湧き出た。
今はまだホタルのように冷静で、仲間のために敵に対して非情な振る舞いを取ることができるか分からない。少年が言ったように殺すとか殺さないとか覚悟はできていないのかもしれない。
けれどナルトは、ホタルと同じく仲間のために自分の持ちうる全てをもって、この状況を打破したいという気持ちが胸を埋め尽した。
その瞬間、ナルトの中にある膨大なチャクラが溢れ出るような感覚がした。
しかし頭は冴え、真っ直ぐに魔鏡の壁を捉える。
「行くぞ!サスケ!」
「指図するな!」
そしてナルトの赤いチャクラとサスケの青いチャクラを纏った拳が振り下ろされる。
凄まじい音を立てて、彼らは魔鏡を打ち破った。
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