無敵のマイキーの妹、佐野エマは時々兄に恨みを持つ不良達に目を付けられることがあった。
 今回もそう。エマをだしにマイキーと喧嘩をしたい不良五人組が絡んできたのだ。
 大抵そういう奴はマイキーに半殺しにされて終わるのだが、連れて行かれる時はいつも悔しくてたまらなくなる。

『───待ってください!』

 しかし、颯爽と現れた一人の少女によってエマを連れて行こうとした不良どもは瞬殺された。

 手入れの行き届いた黒髪に一切着崩していない制服。楚々とした雰囲気の少女が圧倒的な力とスピードによって不良達を蹂躙していく。
 その様は同じ女としてあまりにも衝撃的で格好良い。

 そしてきちんとお礼を言う暇もなく彼女はその場から去ってしまった。
 その後マイキーが迎えに来るだろう方向に走っていけば、彼と兄の友人のドラケンがバイクに乗ってやって来た。

「おい、エマ!無事か!?」

 マイキーがバイクから降りて駆け寄って来る。そのままエマを連れ去ろうとした不良達に焼き入れに行くと言うものだから、エマは慌ててそれを止めた。
 あの少女は不良達を沈めた後、病院の住所と電話番号などが書かれたメモを残したのだ。これ以上あの不良達をぼこぼこにするのは、彼女の意思に反するだろう。

「それより聞いて!さっき女の子がたった一人でエマを助けてくれたの!」
「女の子?」

 そしてエマは彼らに語る。
 山のような体躯の不良達を必要最低限の動作で制圧した、清楚な雰囲気の少女のことを。あの不良らが赤子に見えてしまうほど圧倒的な力とスピードで蹂躙したのだ。
 不良らが弱いわけでもない。運でもタイミングでもない。エマのような素人でさえ分かるほど、それは歴戦の武闘家のような動きであった。

 それをマイキー達に夢中で話せば、彼らは溜息を吐く。そしてドラケンはそんなエマの肩をポンと叩いた。

「お前な、漫画でもないし普通の上背くらいの女が瞬殺できるわけないだろ。よっぽどそいつらが弱かったとしか思えねえよ」
「そんなことないもん!本当に強かったの!本当にいたの!」

 トトロいたもん!よろしくエマはドラケンに食ってかかる。
 そんなドラケンとエマを前に、マイキーはほんの少しその少女に興味を持った。




 ◇




 ───2017年7月14日

 タイムリープを経験した花垣武道はその力をもって中学時代の恋人ヒナを助けることを決意する。
 そしてその協力者であるヒナの弟、直人はホワイトボードでヒナの死のきっかけとなり得る東京卍曾について説明していた。

「良いですか?佐野万次郎と稀咲鉄太、この二人の出会いを止めてください。そうすれば今の東京卍會は存在しません」

 ホワイトボードに貼られた二人の男の写真をさしながら直人が言う。しかし武道はふと、そのホワイトボードに貼られているもう一枚の写真が気になってしまった。
 血や抗争、反社会組織とは無縁そうな女性の写真。写真の横には【田中サヨ】と書かれている。

「なあ、直人、この人は一体………」
「武道君。この人とは絶対に会っておいた方が良いです」
「は?」
「田中サヨさんは今では普通のOLとして働いていらっしゃいますが、彼女は学生時代【破壊神】という異名で不良達から恐れられていました。ただ彼女がそういった存在なのは隠されており、都市伝説的な扱いだったのですが……。田中さんがその【破壊神】であったというのを、最近の調査で知ることができたんです」

 それを聞いて武道は思わず笑ってしまう。
 破壊神?こんな優しそうな女の人が不良から恐れられるほどの存在だとは思えない。

「信じられないとは思いますが、これは事実なんです。中学時代彼女の舎弟であり現在運送会社社長の男から話を聞きました。暴力で解決することを是とはせず、しかし差し迫った状況におき力を発揮し仲間を救う……。後輩の女の子を守るために百人もの不良をたった一人で制圧し、ナイフや銃といった武器を持った相手にも素手で圧勝したらしいです」
「そんな馬鹿な」
「実は子供の頃、ボクも彼女に助けられました。当時、彼女が破壊神と呼ばれる女傑だと知らなかったのですが……。高校生の不良達に絡まれていたボクを背負って逃げ、警察を呼んでいる間に襲いかかって来た奴らを苦渋の決断で瞬殺したんです」

 直人の言葉に武道は顔が引き攣る。
 信じられない、がタイムリープが存在するのだ。武道はそんな漫画みたいな少女も、もしかしたら存在するのかもしれないと思ってしまった。

「良いですか?彼女は当時無敵のマイキーと呼ばれていた佐野万次郎を唯一暴力で止められる存在なんです。良識ある彼女を巻き込むことは非常に申し訳ないのですが、もしかすると武道君の強い味方になってくれるかもしれません」
「な、なるほど………」

 武道はゆるゆると頷いてみせる。
 写真にうつる穏やかな女性がそんな暴力の神みたいな存在だとは思えない。

 しかし武道はヒナを救いたいのだ。最強の味方になり得るかもしれない彼女の存在は、直人の言うことが事実ならば非常に心強かった。





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